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中島厚志みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストを講師に招き第137回FEC国際問題懇談会を開催

国際問題懇談会

2010年05月28日更新

今後の欧州経済と日本経済をテーマに講演

講演する中島厚志みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミスト

講演する中島厚志みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミスト

第137回FEC国際問題懇談会の開催風景

第137回FEC国際問題懇談会の開催風景

とき

平成22年(2010)5月28日(金)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

平成22年5月28日(金)に中島厚志みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストを講師に招き第137回FEC国際問題懇談会を開催

内容

 民間外交推進協会(FEC)は5月28日、中島厚志みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストを帝国ホテル東京に招き、「今後の欧州経済と日本経済」をテーマに第137回国際問題懇談会・昼食会を開催した。ギリシャの財政危機は、ユーロの信認問題に飛び火し世界の為替、株式市場を痛撃し、回復を始めた世界経済の行方にも暗雲が漂い始めている。開会に際して久米邦貞元駐ドイツ大使は、「中島講師は幅広く活躍されているエコノミスト。欧州在勤も長く欧州事情に明るい。ギリシャの財政破綻を契機に世界経済の混乱と市場不安が増大している。ユーロ危機はユーロの構造的弱点に起因する欧州全体の問題で根が深い。時宜を得た本日の講演に期待したい」と主催者挨拶。中島講師は、詳細な講演資料に基づき、欧州経済動向、ユーロの構造問題、日本の財政赤字問題などについて述べ、講演後出席者と活発な意見交換を行った。研究会には、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、田代圓東ソー(株)取締役相談役、野村吉三郎全日本空輸(株)最高顧問、山口範雄味の素(株)代表取締役会長、松本謙一サクラグローバルホールディング(株)代表取締役会長、安崎暁(株)小松製作所特別顧問ら多数のFEC会員が出席した。

講演要旨

 統一通貨ユーロは第2の基軸通貨となったが、「財政統合なき通貨統合」という仕組みの矛盾が露呈。通貨統合は早すぎたとの見方もある。足元の欧州経済は緩やかに回復しているが、消費は伸び悩み、設備過剰感が依然強く、回復ペースは緩やかとなる見込み。ドイツでは時短により雇用が維持されており、景気回復局面では既存労働者の時短解除が優先され、新規雇用は遅れよう。ユーロ圏の10年から11年の実質成長率見通しは1%前後と、日本や米国より低い。ギリシャの財政危機に対し、EUとIMFは7500億ユーロ(約84兆円)の緊急融資枠組みを発表し、欧州中央銀行(ECB)はギリシャ国債の買い介入と流動性供給を決定した。EUは財政が一本化されていないため、財政支援は出来ない。短期的な資金繰り懸念は緩和しても、金融支援によりギリシャの債務は増大する。3年間の支援期間中にギリシャ政府が計画する赤字削減策の実現は困難視されており、ギリシャの債務削減の観測が出始めた。債務削減が断行された場合、ギリシャ国債を保有する金融機関の損失が拡大する。問題解決にはギリシャの抜本的な財政再建が不可欠で、生産性向上のためにギリシャ人はドイツ人以上に勤勉になる必要がある。またユーロの導入は、内需成長率格差と実質実効レート格差から域内不均衡を拡大させた。人、物、金の域内自由移動はなく、ユーロはドイツに割安、南欧諸国に割高と、最適通貨理論は実現せず、対外競争力格差を拡大した。過去10年のユーロバブルの調整には所得と物価の引き下げが必要で、高すぎる社会保障水準にも目が向けられよう。

 日本経済は輸出と生産の回復が堅調で、10年度は2%成長が達成見込み。財政赤字が大きな問題。財政赤字の大半が構造的要因で、景気回復しても赤字の大幅削減はむづかしい。歳出の52%を占める社会保障費と国債費は25年度には69%へ上昇、財政の硬直化が進行する。社会保障費の削減や消費税率引き上げ(10%以上)が必要となろう。金融機関の国債運用比率も上昇。貯蓄率が低下する中で国債の国内消化は徐々に困難となる。10年以内に国債暴落の懸念もある。成長率を高めるには企業活力を増す諸施策を同時に進める必要がある。

懇談・意見交換

久米邦貞元駐ドイツ大使:ギリシャのユーロ導入時、経済統計値の改ざんがあった。経済収斂基準の厳格化が必要ではないか。ギリシャはユーロを脱退するのか。エストニアはユーロ導入を表明しているが、東欧各国のユーロ加盟についてはどうなるのか。

中島厚志講師:ユーロ参加後の経済収斂基準は4項目から財政赤字基準だけになる。今後、ユーロの枠組みや参加基準の修正も検討されよう。厳しい基準にすると参加国が限られ、統合理念と単一通貨創出が乖離するが、基準の緩和はないだろう。ギリシャのユーロ脱退は他国へ波及し危険だ。ドイツが脱退しDMに戻るのが最良だが、最終手段か。東方拡大がEU拡大の求心力であり、基準をクリアすれば東欧各国のユーロ参加は認められよう。ユーロ以外に、大統領、文化の共有等EU拡大の求心力を如何にもてるかが課題だ。

松本謙一サクラグローバルホールディング(株)代表取締役会長:政府は日本経済の活性化に真剣に取り組むべきだ。法人税率引き下げは税収減となるし、マニフェストの実行には財源の制約があり厳しい。

中島厚志講師:企業はグローバル化が不十分。日本以外の世界市場(世界の98%)を見ていない。政府も、東アジア共同体構想の中身はなく、農業の壁からFTA締結に真剣でない。グローバルな環境を国内に入れたがらない。企業の総資産利益率(ROA)は、米国10%、日本5%に対して、韓国は10%以上と高く、海外で企業買収や市場開拓を進めている。日本は欧米企業に比べて中小企業のROAが低い。

久米邦貞元駐ドイツ大使:中国人ビザ発給緩和は日本の消費喚起に効果があろう。

野村吉三郎全日本空輸(株)最高顧問:信用基準を引き下げ、発給対象都市も拡大された。羽田開港による影響も加わり30兆円の効果があろう。

大戸武元(株)ニチレイ相談役:ギリシャ国債を保有する欧州の金融機関は大丈夫か。

中島厚志講師:財務情報の開示が不十分で、サブプライム関連の不良債権処理の実態は判らないが、ドバイショックやギリシャ問題も加わり米銀以上に痛んでいるのではないか。スペインの銀行の不良債権比率は10%と邦銀の最悪時(8.4%)以上だ。

大戸武元(株)ニチレイ相談役:日本企業は法人税率や労働法制等ルールが違う中で競争を強いられている。活性化には、純粋国際企業として生きるか、地域密着型で生きるかの戦略がある。原子力発電、電気自動車等の技術の強みもあるが、世界的な金融機能の正常化が重要だ。

田丸 周FEC常任参与:日本の金融業の収益は株高から急回復した。低金利下で国債運用は収益源だ。当面金融機関消化の構図は崩れないのではないか。狼少年的な国債暴落説は疑問に思う。

中島厚志講師:国債運用が金融機関の安定収益源であることは確かだが、1400兆円の個人金融資産の5割は最終的に公的部門へ流れており、今後も国債運用が続くと企業に資金が向かわなくなる懸念がある。自己資本規制見直しによる銀行の国債放出もありうる。

安崎暁(株)小松製作所特別顧問:中国には政策がある。人民元も段階的切り上げとなり、プラザ合意のようにはなるまい。日本は民に政策ありで国に政策はない。

山口範雄味の素(株)代表取締役会長:日本では民間の警世的提言の積み重ねから政策が形成されるので、個別の動きが必要だ。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

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