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水野和夫三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株)チーフエコノミストを招き第141回FEC国際問題懇談会を開催

国際問題懇談会

2010年07月28日更新

21世紀は陸と海のたたかい-バブル依存症候群とデフレ-をテーマに講演

講演する水野和夫チーフエコノミスト

講演する水野和夫チーフエコノミスト

第141回FEC国際問題懇談会の開催風景

第141回FEC国際問題懇談会の開催風景

とき

平成22年(2010)7月28日(水)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

平成22年7月28日(水)に水野和夫三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株)チーフエコノミストを招き第141回FEC国際問題懇談会を開催

内容

 民間外交推進協会(FEC)は7月28日、水野和夫三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株)チーフエコノミストを帝国ホテル東京に招き、「21世紀は陸と海のたたかい-バブル依存症候群とデフレ-」をテーマに第141回国際問題懇談会・昼食会を開催した。日本はバブル崩壊後「失われた20年」が進行中であるが、リーマン・ショックとギリシャ財政危機を契機に欧米もデフレ化しており、今後の世界経済の行方が注目される。水野講師は配付された分析資料により、先進国経済のデフレ化、「海の時代」から「陸の時代」への転換、今後の景気回復などについて述べ、講演後出席者と活発な質疑応答と意見交換を行った。研究会には、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、生田正治(株)商船三井最高顧問、法亢堯次フジサンケイ・コミュニケーションズインターナショナル代表取締役会長、今田潔信越化学工業(株)顧問、成川哲夫興和不動産(株)代表取締役社長、小野寺優(株)ニフコ代表取締役社長、武井宏(株)ボルテックスセイグン代表取締役社長ら多数のFEC会員が出席した。

講演要旨

 日本の「失われた20年」は特殊現象ではない。日本の国債金利は17世紀に急低下した欧州の金利水準を下回っているが、今後は欧米金利もデフレから低下し、「21世紀の利子率革命」を迎える。日米英の対GDP投資比率は70年代半ばをピークとして、低下に転じた。日本企業は過剰債務の大幅削減に努め、地価下落とともに長期債務返済年数は73年水準まで低下した。米国でも住宅価格下落と家計の債務比率低下により、過去外国人投資家に依存していた国債の国内消化が可能となった。日本のGDPデフレーターは15年間下落中で、米、EUに15年先行した。日本のデフレは、03年以前は内需不足、以降は輸入価格下落に起因する。90年代以降日米の資本と労働の分配関係は崩れ、対GDP比雇用者所得は低下した。増加を続けた日本の賃金は97年以降下落に転じ、02年からの08年までの戦後最長の景気回復下でも減少を続けた。

16世紀から20世紀は、新たな投資機会を空間的に拡大することで経済発展した「海の(資本)帝国時代」で、欧州のグローバル化で10億人市場が成長した。21世紀は全地球のグローバル化により57億人の成長が期待される「陸の(資源)帝国時代」。資源インフレは先進国の所得を流出させ、デフレ要因となる。ギリシャ財政危機で独仏のEU帝国意識が強化され、ユーロ崩壊はないと見る。新自由主義(重金主義)から新通商主義への転換で、ボルカー・ルール(金融規制案)と米国の輸出倍増戦略が注目される。

日本の景気は09年4月から回復。原油価格は咋年16ドル/バレル上昇したが、売上高は14%増となり人件費削減圧力は低かった。秋以降は輸出鈍化と消費刺激策の剥落から、景気回復(売上増)は続くが所得増につながらず、景気は息切れしそうだ。

懇談・意見交換

生田正治(株)商船三井最高顧問:米国債が国内消化可能となるのは朗報だ。今後の財政赤字見通しはどうか。ギリシャ財政問題の解決には独等からの財政支援となろうが、国民性の違いもある。ECBの対応はどうか。

水野和夫講師:米財政赤字要因として医療制度改革とアフガン増派による軍事費負担が大きい。ECBはギリシャ政府の予算に拒否権を留保しよう。

成川哲夫興和不動産(株)代表取締役社長:東西ドイツ統一時に現地で感じたことは、分裂国家を統一するというコール首相の強い政治意思だ。EUも政治意思の産物であり、ユーロは堅固だ。

渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:近くボルカー氏に会うが、ボルカー・ルールに死角はないか。

水野和夫講師:大銀行も破綻させるという強硬論は修正され、経済を冷やす懸念は回避された。投機資金に課税するトービン税構想に対するボルカー氏の考えも聞きたい。

水沼正剛電源開発(株)取締役:中国、インドは華僑、印僑をもち「陸の国」とは言い切れない。帝国化して欲しくないのは米中か。EUの帝国化の意味が不明。また、蒸気機関の発明や石油が国際商品化したのは近代で、16世紀に安価なエネルギーで構造変化が起こったのではないと思う。

水野和夫講師:アジア内陸部は開拓の歴史。ユーラシアで完結できれば、大海を横断して外へ向かう必要はなくなる。

法亢堯次フジサンケイ・コミュニケーションズインターナショナル代表取締役会長:生育した風土に基づく幸福感がある。欧州の森の国は地中海への劣等感があり、米国の生活信条はキリスト教だ。世界的な規律形成はどうなるのか。

田丸 周FEC常任参与:デフレ先行国日本の、成長に依存しない新モデルのイメージを伺いたい。

水野和夫講師:地域主権による「動かない」定常型モデルを想定している。5地域で各百兆円経済。一人当たり所得は4万ドルあり、地域経済圏で完結すれば移動コストはかからず成長も不要。

生田正治(株)商船三井最高顧問:日本の枠を超えてアジア市場で生きるべきか。ただ、ハンディキャップあり失うものも出よう。

法亢堯次フジサンケイ・コミュニケーションズインターナショナル代表取締役会長:英国のようにアジアで尊敬されるかが重要だ。

今田潔信越化学工業(株)顧問:宗教と経済の融合について伺いたい。

水野和夫講師:実物経済と金融の関係が崩れたように、資本主義の限界に対して倫理観を取り戻すために宗教心が必要だ。かつては教会に余剰マネーを吸収する役割があった。

田丸 周FEC常任参与:為替見通しを伺いたい。

水野和夫講師:米国は今後1年ドル安放置の態度で、79円割れもあろう。欧銀の不良債権処理負担から1ユーロ1ドルへ低下の見込み。人民元の上昇は当面5%以内に抑制され、円対人民元は上昇へ。中長期的にはドル・プレミアムはユーロに受け継がれ、5乃至10年後は1ユーロ2ドル、1ドル100円に戻ろう。


(田丸 周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)


なお、水野氏は翌29日(の日経によると)政府から官房審議官(経済・財政分析担当)への就任を打診され、起用への方向で最終調整に入った事が明らかになった。

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