平野英治トヨタファイナンシャルサービス(株)取締役副社長を招き第140回FEC国際問題懇談会を開催
2010年07月20日更新
グローバル化といかに向き合うかをテーマに講演
とき
平成22年(2010)7月20日(火)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
平成22年7月20日(火)に平野英治トヨタファイナンシャルサービス(株)取締役副社長を招き第140回FEC国際問題懇談会を開催
内容
民間外交推進協会(FEC)は6月20日、平野英治トヨタファイナンシャルサービス(株)取締役副社長を帝国ホテル東京に招き、「グローバル化といかに向き合うか」をテーマに第140回国際問題懇談会・昼食会を開催した。ギリシャの財政危機とユーロ不安を契機に日本は円高・デフレが進行、企業は好調が持続する新興国の市場開拓が課題となっている。開会に際して佐藤晃一(株)ホテルオークラ社友は、「平野講師は日銀時代、国内中枢部門と国際部門の要職を歴任され、02年に国際担当理事に就任。06年トヨタファイナンシャルサービスに移られてからも内外で幅広く活躍されている。グローバル化について豊富な知見に基づく見解と意見交換に期待したい」と主催者挨拶。平野講師は、講演レジュメに基づき、ギリシャ・ショックと日本への警鐘、韓国の回復、トヨタのグローバル化などについて述べ、講演後出席者と活発な意見交換を行った。研究会には、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、野村吉三郎全日本空輸(株)最高顧問、武藤高義カルピス(株)相談役、田中宏(株)クレハ相談役、大戸武元(株)ニチレイ相談役、今田潔信越化学工業(株)顧問ら多数のFEC会員が出席した。
ファンロンバイEU大統領は、「実力以上の通貨は睡眠薬のようなもの。ユーロ圏を守るために財政、社会保障、労働市場改革が必要」と言明した。ギリシャの財政危機表面化以降、対応を巡る加盟国首脳の足並みの乱れがユーロ不信感を招いた。域内では労働移動面の障壁があり最適通貨圏は実現せず、ドイツの競争力が増し域内不均衡が拡大した。域内不均衡は、為替、金融政策では解消できず、構造改革と生産性向上でしか是正できない。ユーロの遠心力が増大したが政治的産物故、ユーロ崩壊には至るまい。ユーロは欧州不戦の誓いを統一通貨で担保した、統合の威信と復権をかけたもの。世界の金融資産の3割を占め、国際通貨制度に堅固に組み込まれている。ユーロ危機を契機に、欧州は各国予算の相互監視強化など結束力が高まっている。長期的にはユーロは磨かれよう。一方、政府債務の対GDP比が200%に上る日本の財政事情は世界最悪だ。しかも少子高齢化が急速に進み、潜在成長力は低下している。円高は輸入品価格を低下させデフレの一因となるが、年金生活者は歓迎する。財政危機にも拘わらず、実質金利面で有利な国債が買われ続けている。深刻な状態が表面化しない奇妙な均衡状態であるが、財政改革の好機。聖域なき歳出の見直しと抜本的な税制改革が必要だ。景気は良くならないので、パイを拡大する政策も必要だ。国債の国内消化が限界となれば、海外消化依存となり、円安とインフレのリスクが現実化する。
韓国は97年に外貨危機に陥り、IMF主導で財閥解体等の荒療治が行なわれた。IMF批判が今でも強いが、韓国企業は英語とITを重視したグローバル化対応に成功し自信を回復している。英語力で日本は完全に抜かれ、国際会議での発言力も日本より上だ。アジア発展の原動力は教育への重点投資だ。ハーバード大学在籍数を17年前と比べると、日本は半減、中国2倍、韓国3倍と開きがある。欧米が保護主義に傾斜する中で、アジアにグローバリゼーションを担う自信が感じられる。過去日本はアジアと欧米の架け橋役を担ってきたが、今や中国、韓国、インドが自力をつけ、日本の席がない。アジアは世界の企業が注目する競争的市場。アジアで勝てなければ日本の未来はない。90年代の米国の成長は中間層に支えられたが、グローバリゼーションによるインド人技術者等の躍進は、高失業と中間層の没落を招き、社会契約が破綻した。企業・金融への反感も増大した。オバマ大統領は教育強化による生産性向上、所得再分配、社会契約の再構築を志向している。
トヨタのグローバル化は、「カイゼン」「現地現物」などのトヨタ生産方式が世界に受け入れられたことによるが、今や現代自動車、VWに模倣されている。トヨタも含め日本企業はグローバル戦略の構想力が不得手で、課題だ。異文化の受け入れ、国際的人材の育成、高い教育水準と倫理観の再構築も必要だ。
大戸武元(株)ニチレイ相談役:英語を公用語にする日本企業も増えているが、価値観や日本の労働慣行まで変えられるのか。中国向け販売は容易だが、売掛金回収は厳しい。日本の金融の仕組みで通用するのか。
平野英治講師:英語の公用語化は目的でなくグローバル化現象の一部分だ。グローバル化で戦うには官民協力が必要。世界の投資銀行業務は業績連動型の報酬で執着心が徹底している。邦銀には向いていない。物に裏付けられた金融が本来の姿だ。
今田潔信越化学工業(株)顧問:自社の強みを強化し国際競争力をつけることが重要と思うが、アジア市場戦略を伺いたい。
平野英治講師:新興国と環境がトヨタの重点戦略。インド市場では鈴木、タタ、現代で7割シェア。トヨタは3%と低い。市場に適合した商品開発(リバース・エンジニアリング)ができていない。高付加価値車を作っていた技術者が低機能車作りに急には転換できない。現地で開発、製造する必要がある。
野村吉三郎全日本空輸(株)最高顧問: グローバル化時代には人、物、金の集中で発展する。政治家と官僚が密接に協力して構想作りをしないから、日本の空港、港湾は近隣国に負けている。
平野英治講師:安全、清潔、食文化面で日本の人気は高いが、アクセスの不便さから国際会議開催も減っている。
田丸 周FEC常任参与:産業波及効果の大きなトヨタの復活を期待している。米国は貧富格差が大きいが移民流入で活力、成長力を維持している。日本のパイ拡大策として、移民の受け入れも考えられよう。
平野英治講師:政治家は移民政策をタブー視している。自動車産業も外人労働者を多く雇用しており、きちんと政策論議すべきであろう。
山田洋暉(株)クラレ監査役:邦銀は何故グローバル化に失敗したと考えられるか。
平野英治講師:自動車は国内の競争激化から海外に出た。金融業界は保護行政が長すぎた。バブル崩壊後も救済され需給ギャップを拡大させた。金融機関数は多く、収益性も低い。
織田幾太郎FEC参与:近く公表予定の欧銀のストレス・テスト(健全性審査)結果はどうなりそうか。
平野英治講師:市場が納得する結果になるのではないか。資本不足銀行に対する当局姿勢も注目している。
(田丸 周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)