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アリステア・マクレーン駐日オーストラリア大使を招き第134回FEC国際問題懇談会を開催

オーストラリア 国際問題懇談会

2010年03月23日更新

日本とオーストラリア関係の現状と今後の展望をテーマに講演

講演するマクレーン駐日オーストラリア大使

講演するマクレーン駐日オーストラリア大使

第134回FEC国際問題懇談会の開催風景

第134回FEC国際問題懇談会の開催風景

とき

平成22年(2010)3月23日(火)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「なだ万」

概要

3月23日(火)にアリステア・マクレーン駐日オーストラリア大使をお招きして第134回国際問題懇談会を開催した。

内容

民間外交推進協会(FEC)は3月23日、アリステア・マクレーン駐日オーストラリア大使を帝国ホテル東京に招き、第134回FEC国際問題懇談会・昼食会を開催した。開会に際して田中宏(株)クレハ取締役会長が、「日豪両国は価値観を共有し相互に巨大な輸出市場となっている。観光も人気。捕鯨、漁業資源を巡る小さな問題あるが基本的な友好関係は良好で、今後の発展にどう取り組むかが課題」と挨拶。マクレーン駐日オーストラリア大使は香港、上海、北京駐在経験のあるアジア通のベテラン外交官で、2004年以来駐日大使として日豪外交関係の発展に尽力されている。マクレーン大使は、「日本―オーストラリア関係の現状と展望」をテーマに所感を述べ、昼食会では出席者と和食をともに一問一答の質疑応答が活発に行われた。FECからは松尾邦彦国際石油開発帝石(株)代表取締役会長、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、山田洋暉(株)クラレ監査役、古川弘成阪和興業(株)代表取締役副社長、内山正人電源開発(株)執行役員エネルギー業務部長らが出席した。

講演要旨

日豪関係は強固な関係で、共通の利益を目指し行動を共にするパートナーシップに変わりつつある。日豪貿易は1865年の石炭出荷から始まった。豪州は石炭やLNG、ウラン等、日本にとって最大のエネルギー供給国で、日本に対する3大農産物供給国の一つ。多くの日本人が、豪州産大麦を原料としたビールや、タスマニア産のそば粉で作った蕎麦、「オージービーフ」によるハンバーグやステーキを味わっている。また豪州産の石炭やLNG、ウランを利用した電気、ガスが、照明や暖房、調理に使われている。日本からの豪州向け投資も長らく歓迎されており、トヨタ豪州は今や最大の自動車輸出企業となり、自動車は製造業最大の輸出品目だ。日本の対豪投資は2009年末で895億豪ドル、日本は豪州にとって世界第3の海外投資国だ。日本に輸入されているオージービーフの40%は、日本企業が所有する農場で生産されている。キリンは今やオーストラリア最大の乳製品企業を所有している。こうした投資は、日本の食糧安全保障に直接的に貢献する。

日豪は現在、経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を交渉中です。本協定が日豪関係にもたらす恩恵は、より確かで強固となる。日本の一部では、日豪EPA /FTAが懸念されているが、情報不足だ。日豪EPAは、日本のコメ産業に全く脅威を及ぼさない。日本は年間約850万トンのコメを生産するが、豪州の生産量は17万5千トンに過ぎず、豪州はコメの純輸入国であり日本から輸入している。日本の食料安全保障は、国内農業の強化や、豪州等主要供給国との食料貿易パートナーシップの強化を通じて達成される。日豪EPAは、日豪食品貿易を強化し、日本の農業の生産性を向上させる国内努力を手助けする。EPAを通じた輸入食料への関税削減は、多くの食品関連日本企業の調達コストの引き下げと小売価格の低下につながる。質の高いEPA /FTAは、両国の経済的統合を進める。日本の対豪輸出品の70パーセントが有税品目で、このため日本の輸出業者は米国やタイ、シンガポール、ASEAN諸国といった豪州のFTA締結国に対し、不利な状況。現在中国や韓国ともFTAを交渉中。EPA /FTAの利点は、投資分野にも該当する。米豪FTAにより、8億豪ドル未満の米国からの投資は認可や審査を必要としないが、日本からの5千万豪ドル超の投資は全て政府の審査対象となっている。強い豪州経済が日本に重要で、強い日本経済は豪州に重要。EPA /FTAにより貿易と投資の増大が一層強化されよう。

パートナーシップ分野としては、他に文化、人的交流がある。訪問外国人数として、日本は世界で5番目。一方、ニセコには豪州観光客が実に多い。日本の修学旅行先として豪州は最も人気が高く、9千人以上の日本人学生が豪州に留学中だ。日本語及び日本文化は高い人気。教育交流の重要性は、直に感じる。FECの国際交流促進活動を称えたい。両国の財界、民間部門での直接交流は、日豪パートナーシップの発展にとり欠かせないもの。昨年の鳩山首相就任時、ラッド首相は最初にお祝いの電話をかけた世界首脳の一人。以来両首脳は何度か会談し、先月岡田外相はラッド首相、スミス外相と会談した。2007年11月のラッド政権発足以来、25回大臣が来日した。

2007年3月の安全保障協力に関する日豪共同宣言は、日本が米国以外と署名した、この種の文書として最初のもの。本宣言の行動計画には、日豪外務・防衛閣僚会議(2プラス2)が含まれ、日本にとっては日米以外で唯一のもの。豪州国防軍と自衛隊間における協力促進の交渉も順調。日豪が共に米国との同盟関係にあり、我々の安全強化とアジア太平洋地域の安定に貢献する。日豪は核軍縮や核不拡散においても行動を共にする。日豪は2010年開催のNPT(核不拡散条約)運用検討会議を成功させるべく、岡田・スミス両外務大臣は核不拡散と核軍縮取り組みにおいて緊密に協力する点で合意した。

アジアは2020年迄に、世界GDPの45%、世界貿易の3分の1、世界のエネルギー消費増加分の半分以上を占め、世界の80億近い人口の56%がアジアに居住する。日豪は20年前、経済分野におけるアジア太平洋地域組織の設立に向け行動を共にし、1989年11月にAPECが誕生した。今年横浜で開催予定のAPECで日本との緊密な協力を楽しみにしている。APECやASEAN地域フォーラム、東アジアサミットには政策権能はない。アジア太平洋地域の主要国代表を一堂に会する仕組みが必要で、安全保障、経済、政治上の課題全体に関与する権能が与えられるべきだ。ラッド首相は、アジア太平洋共同体の設立を長期的に提案している。地域協力と協働の文化の育成を助け、気候変動や資源・食料安全保障、バイオセキュリティ、テロなど、国境をまたぐ課題に対処する。ラッド首相のアジア共同体提案と鳩山首相の東アジア共同体には補完性がある。豪州は国連総会における日本のイニシアチブを一貫して支持してきた。気候変動における日豪協力も可能。温室効果ガスの削減と、グローバルCCS(二酸化炭素回収貯留)研究所を豪州が設立した点を、日本は強く支持した。日豪は、世界的な温室効果ガス削減計画で見解が一致している。G20は新興国と先進国を含むのが利点。日本と共に協働できるのが楽しみ。

捕鯨問題では意見の差が大きい。豪州は商業捕鯨、調査捕鯨に反対。日本の南極海での捕鯨継続は理解できない。国際捕鯨委員会(IWC)での交渉を望む。シーシェパードのような危険で対立的なやり方は全くの誤りであるとして、豪州政府は非難している。日豪関係は重要かつ緊密で、優れた協力の歴史がある。国益の共有機会も増えており、両国のパートナーシップは相互利益。地域の将来を作る上で、また地域と世界の課題に取り組む上での協力の可能性が大きい。

懇談・質疑応答

田丸 周FEC常任参与:日豪EPA /FTAは交渉開始後2年たつが進捗状況はどうか。

マクレーン大使:JA、農林族議員が不必要に警戒心を煽るキャンペーンをしている。自分は41の道府県を訪問し対話を続けている。JAは、日本の乳製品、小麦、砂糖等農産物が打撃を受けると猛反対している。日本向け乳製品輸出に対する高関税はFTA締結後も変わらず経済性はない。日本の野菜や食品は高品質だ。JAの自信喪失に驚いている。

田中宏(株)クレハ取締役会長:日本の食糧自給率は熱量ベース40%、付加価値ベースで70%。日本は儲かる食品作りが必要だ。JAを説得しても承諾しないだろう。

松尾邦彦国際石油開発帝石(株)代表取締役会長:対決の構図が強調されている。日豪農家の技術協力による契約栽培も可能となる時代になろう。

マクレーン大使:北海道の農民が訪豪し栽培方法の違いを理解した。豪州は雨が少なく広大な農地による栽培、日本は集約的農業だ。

山田洋暉(株)クラレ監査役:韓国、中国とのFTA交渉は進んでいるか。

マクレーン大使:韓国とは9ヶ月交渉し進んでいる。農業を含め年末締結の見通しだ。中国とは農業問題があり進展していない。

松尾邦彦国際石油開発帝石(株)代表取締役会長:中国の海外資源投資が活発だ。豪州はどのような対応をしているのか。

マクレーン大使:外国投資は基本的に市場に任せ歓迎の立場だが、ガイドラインはある。国富ファンド等外国政府投資の場合、出資比率等が慎重に審査される。国益の観点からメディア、資源分野への投資は審査会で審査される。深刻な事例は財務相が最終決定する。日本からの投資で拒絶例はない。

内山正人電源開発(株)執行役員エネルギー業務部長:石炭を輸入しているが、今後資源ナショナリズム的動きの可能性はあるか。

マクレーン大使:政策に変化はないと思う。中国アルミがリオティントに追加投資を仕掛けたときは豪国民の反発を招いた。

古川弘成阪和興業(株)代表取締役副社長:BHP・リオティントの事業統合問題に対する政府見解は。公取委はあるのか。

マクレーン大使:EUの認可当局の審査中であるが、豪州内の審査会の段階となっても外国企業による買収ではないので豪政府は反対しないと思う。競争委員会はアグレッシブな姿勢。商業取引に政府が介入する問題ではない。金融業でも交流促進を希望する。

田丸 周FEC常任参与:豪州は早くも出口政策の段階で金利が引き上げられた。日本から豪ドル建ての外貨預金や投信運用が増加しよう。

マクレーン大使:財政黒字から世界金融不況後の政策対応が早く、景気後退は3ヶ月で済んだ。金利は正常レベル迄引き上げられよう。日本の巨額な貯蓄による豪州投資に期待している。

木村丈剛旭海運(株)取締役社長:港湾施設が満杯で荷揚げ待ちの状態が続いている。組合も強くターミナル運営が非効率だ。

マクレーン大使:東海岸の需給がタイトで石炭積み出しに深刻な影響が出ている。2、3年前より改善したが各州で同様の悩みがある。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

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