English

第84回FEC国際問題懇談会(略称・FEC国問懇)

国際問題懇談会

2007年09月18日更新

「郵政改革の原点」(ゲストスピーカー・生田正治初代日本郵政公社総裁)

ゲストスピーカーとして4年間の郵政民営化実現への大任を果したその苦労話を語る生田正治初代日本郵政公社総裁

ゲストスピーカーとして4年間の郵政民営化実現への大任を果したその苦労話を語る生田正治初代日本郵政公社総裁

とき

平成19年(2007)9月18日(火) 12時〜14時

ところ

ANAインターコンチネンタル東京ホテル・37階「アリエス」

概要

生田正治(株)商船三井相談役・初代日本郵政公社総裁を招き第83回国際問題懇談会を開催。

内容

昼食懇談会、講演会と質疑応答

概 要

 FEC民間外交推進協会(金川千尋会長)は9月18日昼、生田正治(株)商船三井相談役・初代日本郵政公社総裁を招き、ANAインターコンチネンタル東京ホテルで第84回国際問題懇談会を開催した。フォーラムには、FEC役員、法人会員、個人会員ら多数が出席した。

開会に際して埴岡FEC副理事長より、「生田正治初代日本郵政公社総裁は、小泉首相の構造改革の御旗として、4年間郵政改革を強力に推進され、10月の郵政公社民営化へ道筋をつけられた。本日は郵政改革の実態について、率直なお話しをお伺いし、談論風発の場としたい」と開会の挨拶の後、岡崎真雄FEC副会長・ニッセイ同和損害保険(株)名誉会長が、「生田氏は同窓の先輩で私的親交も長い。海運業界の重鎮からマンモス郵政公社民営化の大仕事に淡々と取組まれ、4年間で着実な成果を挙げられた事は誠に感銘深い」と主催者挨拶を行った。生田前総裁は、「郵政改革の原点」をテーマに、郵政改革の経緯、経営改革の具体策、民営化の展望等について率直な所感が述べられた。講話後は、FEC役員、会員らの出席者と和やかに懇談、質疑応答が行われた。

講演要旨

 91年のバブル崩壊後日本は「失われた10年」に入り、それまでトップだった国際的評価(IMD)も米国に抜かれ低迷した。小泉首相は財政刺激策よりも構造改革を推進し、その本丸が郵政民営化だった。昨年安倍首相に代わり、民営化反対議員が復党するなど政治の軸がなくなり、パッチワーク的施策が目立つ。この1年郵政改革は後退し、規制改革も鈍く、構造改革は鈍化した。世界経済も東西、南北を包含した世界的グローバリゼーションが加速した。

 ブレジンスキーは「日本の高度成長期の強みは弱みになった」とみる。高水準の教育は硬直化し、割安労働コストも割高となり、政官財の結束は官僚肥大化を招き、「日本株式会社」を支えた保護行政・規制は競争力阻害要因となった。小泉構造改革に経済界は呼応し、民需主導で景気は回復し、企業の財務体質も強化された。「市場原理主義」への批判がインテリ的ファッションだが、機会均等、公正な競争を前提とした市場原理は市民生活を豊かにするものであり、善と思う。 経済フローの改善に対し、ストックの回復は遅れた。国地方の債務残高は1千兆円(一人当り780万円)を超える。官業の構造改革、生産性向上が急務であり、郵政民営化が正に該当した。

 02年8月に郵政公社総裁就任が決まり、8ヶ月の準備期間に2つの労組に経営課題を率直に話し、労組の全面協力の下で、以後常勤職員の人員削減(28万人から24万5千人へ)をマスコミに漏れずに円満に実現させた。03年4月の公社発足にあたり、(1)真心のサービス提供、(2)郵便・郵貯・簡保三事業の健全化、(3)働き甲斐のある職場作り、という経営ビジョンの発表、具体的行動計画を策定し、各職場に意識改革を訴えた。05年10月に民営化法案が可決され、191回の国会答弁では、「民営化する場合には公社の合理化とともに国民の利便性を視野に入れた制度設計が必要。郵貯・簡保資金は生きたお金として市場に流す」と民営化の目的を説明した。民間資金と同条件になるので民営化後10年で資金量、利益とも2/3へ健全に縮小する見通しだ。

 民営化を成功させる要件として、まず「郵政維新」を行った。トヨタ生産方式導入による集配区分作業の生産性向上と就労管理の改善から、郵政事業は4年で黒字化した。郵便局会社の体制整備は、特定郵便局の特権(転勤、定年制、人事権、局舎等)の見直し等課題が多い。

金融不安から公社発足時には356兆円へ膨張した郵貯・簡保資金は299兆円へスリム化した。投信販売も好調だ。郵貯・簡保の新規事業は、関係業界との利害調整ではなく顧客利便性を重視し、株式投資、クレジットカード、住宅ローン、外貨預金等、運用面の多様化を目指す。完全民営化迄の10年の移行期間は、(1)国債改革への段階的連動、(2)政府保証区分による新旧勘定への分離、(3)専門職員の拡充等内部体制整備、が重要だ。現経営陣は資金量拡大の檄を飛ばしているが、運用能力がないと利益率は低下する。適度な資金量に抑え民間銀行並みに利益率を引き上げるべきだ。

残された課題として、コンプライアンス強化、3事業の代理店となる郵便局改革、システム整備、国際物流がある。市場は厳しく監視しており、外観だけを民営化し内臓は元に戻すようなことは許されない。

懇談・質疑応答

笹森: 難しい2つの組合を統合させた功績は大きい。何故3月で総裁を退任されたのか。4年目の決算を前に民営化させてよいのか。「民業圧迫」批判や過疎化対策との兼ね合いはどうか。(前連合会長)
生田: 職員、取引先のために9月末迄総裁を続けるのは当然と思っていたが、内閣の方針で新体制になった。黒字化したが利益体質構造をいかに作るか課題だ。郵貯・簡保資金の流れを変える事は国家財政、金融市場の健全化に直結するが、新ビジネスモデル作りに10年かかる。郵便局ネットワーク維持は原則だ。(前総裁)
小長: 意識改革を実現させた具体的手法は。(AOCホールディングス取締役相談役)
生田: 幹部段階では、ガバナンス維持のために理事会に社外理事を入れ、執行役員制も導入した。自分は全国50ヶ所の現場を回り職員との対話に務め、徐々に職員の意識が向上していった。
鈴木: トヨタの生産性向上方式を導入されたが、効果は。(メルシャン特別顧問)
生田: モデル郵便局で36%生産性が改善し、その後全国の千局へ展開し22%改善効果があった。経済効果を高めるべく昨秋より就労管理の適正化を運動中。サービス業を強く自覚させるために、「創造」を、キーワードとして、局長以下にCS(顧客満足)研修を実施した。

閉会あいさつ

 国家的課題の郵政改革に体を張られてご尽力されたお話しに感銘を受けた。生田氏にはこれからも、教育など重要課題に対し出番があるのではないか、今後のご活躍を祈念したい。

(田丸周FEC常任参与・(株)リケン常勤監査役・記)

< 一覧へ戻る