鈴木佑司法政大学法学部国際政治学科教授を講師に招き第21回FEC米国問題研究会を開催=FEC日米文化経済委員会
2010年03月24日更新
日米関係と鳩山外交=新たな安全保障構想に向けてをテーマに講演
とき
平成22年(2010)3月24日(水)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
平成22年3月24日鈴木佑司法政大学法学部国際政治学科教授を講師に招き第21回FEC米国問題研究会を開催した。
内容
FEC日米文化経済委員会(委員長・徳川恒孝(財)徳川記念財団理事長)は3月24日、鈴木祐司法政大学法学部国際政治学科教授を招き、第21回米国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。鳩山政権の普天間基地問題への対応は、米国オバマ政権の不信感を高めており、成熟した日米同盟関係への影響が懸念される。「日米関係と鳩山外交」をテーマとした研究会には、田代圓東ソー(株)取締役相談役、田中宏(株)クレハ取締役会長、森元峯夫(株)エスイー代表取締役社長、内田勲横河電機(株)代表取締役会長、中嶋洋平日油(株)代表取締役会長らFEC役員、法人会員が多数出席した。
開会に際して渡邊五郎FEC日米文化経済委員会副委員長・森ビル(株)特別顧問は、「鈴木教授は国際政治、アジア太平洋情勢にも詳しい。その視点も含め日米関係と鳩山外交についての見解を伺い、出席者と活発な議論を期待したい」と主催者挨拶。鈴木教授は精緻な関連資料(レジュメ、図表、民主党政策集)を配布し、安全保障問題を中心に、歴史的、国際的視点から日本の防衛・外交についての自説を述べ、講演後出席者と一問一答の活発な意見交換が行われた。
民主党の外交・安全保障政策は07年の小澤代表時の党政策集が最も完成度が高く、鳩山首相もほぼ同じスタンス。日米基軸、アジア重視、国連中心という戦後外交の3本柱を継承している。この3本が相互に矛盾する場合の選択方針が不明確。最大の問題は日米安保条約にあり、国連決議なしに勝手に動ける仕組みとなっている。日米同盟の基本は対等であるが、敗戦・冷戦下のシステムで基地問題、地位協定の不平等性がある。アジアの輝かしい成長経験を取り込むべく、鳩山首相は始めて東アジア共同体構想を提唱した。国連中心主義にはPKO活動の展開がある。ベトナムは中国と一触即発状態であったが、ASEAN加盟で回避された。ASEAN誕生後戦争は発生していないことをヒントに、東アジア共同体構想を出したが、民主党の政策集に記述はない。EUやASEANのような地域安全保障共同体の重要性に触れていない。福田総理時代、「アセアンは日本が育てた」との認識からアジアとは緊密な関係があった。ヒラリー米国務長官は頻繁に訪問しているが、鳩山首相の訪問はまだない。
1648年フランスに最初の近代国家が誕生してから内乱は起きていない。日本も西南戦争からサリン事件まで118年内乱はなかった。ドイツのシュミット元首相は、「米国はグローバルに考えグローバルに行動し、日本はローカルに考えローカルに行動する」と言ったが、日本国民が甘やかしてきたのが背景だ。グローバルに考えローカルを超えて行動する必要が高まっている。冷戦後の紛争は、南北格差拡大と平和の配当が途上国に回らないことに起因する。人間の安全保障が重要で、貧困と社会的格差の解決が難題。
伝統的安全保障(日米安保)の維持は欠かせないが、地位協定をどう変えるのか。米国民を犠牲にする「核の傘」は無理ではないか。現状は核廃絶と核テロのタイムレースとなっているが、将来は「安全保障の非核化」の方向。日本の通常兵器能力は高い。東アジア共同体は可能か不明。ASEANプラス日中韓で中国との協調的安全の確立が重要。アジアの中間層人口は8億人で欧州を抜く。
田丸周FEC常任参与:東アジア共同体の中身はどうなると予想されるか。
鈴木祐司法政大学教授:米国は民主党を中心に日本の中国接近を警戒している。米国が過剰反応せず、中国が主導権をとらない、ASEANプラス3の形がよいと思う。80年代の日米摩擦時の日本の対応も、輸出自主規制とアジアへの生産移転が米国の理想だった。東アジアの軍事的安保をどうするか、日米中いずれもわからない。
田中宏(株)クレハ取締役会長:集団的自衛権行使について、「行使できない」との法制局見解は納得できない。地域の安全保障と中国の価値観を共通化(内政不干渉)しないと東アジアの共同防衛は無理と思う。
鈴木祐司法政大学教授:日米安保は、米国の相互防衛条約であるが日本は憲法9条から片務条約だ。同時に対ソ戦略と対日封じ込め(非核3原則)の意味もあった。イージス艦やF22戦闘機に反対したのも日本に軍事的自立を与えないため。米国は在日基地を撤去しない。中国も日本の軍事力排除のための日米安保を支持している。ドイツは、豊かな米国に支払う理由はないとして、駐留米軍の経費負担をしていない。「駐留なき安保」は相互防衛の一歩手前の発想で、集団的自衛権行使、憲法改正が必要であり政治コストが高い。国連も使えず、結局東アジア共同体に行き着く。
森元峯夫(株)エスイー代表取締役:政権交代で属国から脱したいという雰囲気もあるが、防衛についての世論形成をどうしたらよいか。
鈴木祐司法政大学教授:沖縄の政治意識が最も高い。選挙名人の小沢幹事長の手腕にかかる。日中間は国家対立より複合的関係に移行しよう。日米関係安定化は中国の体制如何に拘らず重要な役割で、日米間の責務の「仕分け」が必要になろう。
中嶋洋平日油(株)代表取締役会長:憲法改正にはエネルギーがかかるが、日本の専守防衛には抑止力を備えた通常兵器が必要だ。ASEANと友好的になれるのか。
鈴木祐司法政大学教授:マレーシアはASEAN安保のリーダーだが、軍の将軍は日本の高機能戦車に驚いていた。F15戦闘機は最新のイスラエル製に匹敵する。ロケットに搭載される日本製ICの不良率は米国製の1/10だ。
内田勲横河電機(株)代表取締役会長:日米安保は現実的に必要。米国の国益上も基地撤去できない。出口のない普天間基地問題を沖縄で再燃させている。
鈴木祐司法政大学教授:鳩山首相は政府間協定を守ると思っていたが、小沢幹事長に「選挙に負ける」と脅されたこと、ゲーツ米国防長官の鳩山政権に対する強圧的態度への反発、から当初案を受け入れにくくなった。
渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:戦後外交の3本柱は守らざるをえないが、自分の国を自分で守るという普通の国にどのようなプロセスでなれるのか。
鈴木祐司法政大学教授:歴史の教訓から普通の国になることは避けられない。防衛方法は知恵しかない。日本は「やりすぎる国」だ。社会統合度と相互理解力が高い。軍事力も平気で行き過ぎる。東南アジアでは完成=死であるが、日本人は突き抜けていく。日本は7世紀に百済に負けると7百年間朝鮮に近づかなかった。明治維新でアジア初の近代国家となったが、安全保障に対して古い思考方法が障害。「最小限の軍事力と非伝統的安保」の組み合わせが望ましい。自衛隊の能力で国連PKOのアジア展開に協力する。北朝鮮からの難民対策にもPKOが必要となる。2千人の中国PKO部隊と手を組むことも必要だ。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)