English

藤原帰一東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授を講師に招き第20回米国問題研究会を開催=FEC日米文化経済委員会

アメリカ合衆国 日米文化経済委員会

2010年03月09日更新

鳩山外交と日米関係をテーマに講演

講演する藤原帰一東京大学法学部教授

講演する藤原帰一東京大学法学部教授

第20回FEC米国問題研究会の開催風景

第20回FEC米国問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)3月9日(火)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

平成22年3月9日(火)藤原帰一東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授を講師に招き第20回米国問題研究会を開催した。

内容

FEC日米文化経済委員会(委員長・徳川恒孝(財)徳川記念財団理事長)は3月9日、藤原 帰一東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授を招き、第20回米国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。普天間基地問題を巡り日米関係が揺らぐ中、研究会には田代圓東ソー(株)取締役相談役、生田正治(株)商船三井最高顧問・初代郵政公社総裁、三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問、田中宏(株)クレハ取締役会長、内田勲横河電機(株)代表取締役会長、中嶋洋平日油(株)代表取締役会長らFEC役員、法人会員が多数出席した。

開会に際して渡邊五郎FEC日米文化経済委員会副委員長・森ビル(株)特別顧問は、「藤原教授は日米関係に造詣の深い国際政治学の権威。テーマは鳩山政権の外交政策、日米関係再構築への道という時宜を得たもの。ご見解と活発な意見交換を期待したい」と主催者挨拶。藤原教授は「鳩山外交と日米関係」をテーマに、普天間問題の行方、米国の政策決定過程、外交政策の目標などについて率直に自説を述べた。講話後、米軍駐留、内政動向、日本外交の問題点等を巡り、オフレコも含め出席者と和やかに濃密な議論がかわされた。

講演要旨

普天間基地移設問題は県内移設以外の選択肢はない。シュワブ陸上案で米国も譲歩しよう。キャンベル国務次官補と小沢幹事長の間で5月末決着の流れがあり、政府間合意が近い。最大の障害は沖縄の地元調整だ。普天間問題は95年の米兵レイプ事件が契機となり、96年の日米首脳会談で橋本首相がクリントンに対し「普天間返還」に言及した。沖縄世論は県外移設を強く要請したが、シュワブ沿岸移転が政府提案となった。98年に太田知事が政府案を拒否し今日に至った。5月に合意しても地元調整がなければ解決にならない。国際政治学では「2レベル交渉(外交と国内調整)」が必要と教える。今回国内調整が終わらない状況でゲーツ国防長官が来日。国防予算計上の関係もあったが米国の拙速と失策だ。米国では軍と政府の対立が決定的。ゲーツを留任させたオバマ政権は軍の影響が強い。核削減に国防総省は反対だ。国務省の立場は弱く、外務省との日米連携・交渉も、国防総省・防衛省連携に比べて弱い。今回も北沢防衛相の動きが岡田外相より早かった。

鳩山政権には外務・防衛省出身者が不在で米国とのパイプもない。首相の指導力もない。省庁タテ割り組織に政務三役を配置しても「省庁ごとの」政治主導にすぎない。国家戦略局の設計も間違い。首相が采配を揮う問題だ。省庁を横断し、首相の指導力で基本方針の策定に成功したのは、中曽根行革と小泉・経済財政諮問会議の2例のみ。COP15を巡る環境・経産省対立は普天間問題と同じ症状だ。

今はどの政党にも風は吹かず、自民党に戻る選択は低い。政局は90年代の再編時より深刻だ。参議院選の組織票は与党に流れる。民主党勝利の可能性が高い。デフレと破綻財政の下で福祉国家をめざす次年度予算を組めるのか。政治の液状化、流動的状況を迎えよう。

日本の政権交代は、停滞した日米関係再構築のセールス・ポイントとなり、日米民主党のパートナーシップによる外交の新基軸つくりの好機だ。スローター国務省政策企画室長が「プリンストン報告」で、普天間以外の日米協力のあり方を提起したが、ハワイの外相会談では語られず不発に終わった。外交政策の基本目標としてまず、「破綻国家における平和構築」がある。オバマが最初の提唱者でアフガンの治安回復等だ。日本の支援実績があり日米協力が可能。非中東イスラム国のマレーシア、インドネシアと日本の緊密な関係に米国は期待している。第2が「核兵器削減交渉」で中国がターゲット。中国政府に対し人民軍を抑え軍事戦略を変えさせるための日米協力だ。米国のミサイル防衛配備の延期、日本のアフガン協力により、米国から中国に圧力をかけ核拡大を抑止する戦略だ。

懇談・質疑応答

武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長:政府は地元調整の前に何故米国と交渉したのか。海兵隊の日本駐留は抑止力から重要なのか。

藤原帰一東京大学教授:同感。橋本首相時代に比べ沖縄との接触が緩い。予算が通過する5月決着にこだわると沖縄との調整が一層困難となる。海兵隊はヘリで戦地へ向かう戦闘能力そのもの。核兵器への日常的抑止力は空軍。沖縄は東アジアの軍事基地として理想的。米国は沖縄撤退には抵抗しよう。

田中宏(株)クレハ取締役会長:沖縄の負担というが、国の安全保障の是非を地方の権限に委ねるのは疑問だ。

藤原帰一東京大学教授:日米地位協定の条文は地方自治体に権限が及ばないように法律構成されている。米海兵隊の海外駐留は日本に15ヶ所(沖縄に11ヶ所)、韓国1、ドイツ1と日本に集中しているが、海兵隊の移転は日米安保を揺るがす問題ではない。演習地は自衛隊基地への移転で沖縄から分散させるのが望ましい。

田中宏(株)クレハ取締役会長:米軍はフィリピンから撤退しており、沖縄から撤退すると東シナ海の脅威が増す。

藤原帰一東京大学教授:フィリピンの基地経費は全額米国負担でお荷物だった。

三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問:シュワブ陸上案は合理的案と思う。

藤原帰一東京大学教授:沖縄が合意できよう。強硬突破できればよいと思うが。

渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:2+2の日米安全保障協議が諸悪の根源だ。喧嘩が弱い日本は恥をかく。この仕組みを変える必要がある。

藤原帰一東京大学教授:経済財政諮問会議方式で政府案を一本化するのが理想だ。

生田正治(株)商船三井最高顧問:憲法改正、国防の観点も含め基本的問題を国民に提示すべきだ。既に合意していたのに今は被害者意識が前提の感情論が多い。1.5万人雇用効果等沖縄の本音もある。条件闘争からの「反対」意見もあるようだ。早期解決を望む。

藤原帰一東京大学教授:条件闘争になれば教条派は引く。日常生活面までおりた現実的議論もある。

山田洋暉(株)クラレ監査役:小沢幹事長、鳩山首相とも日米同盟よりも自主防衛派か。

藤原帰一東京大学教授:50年代から繰り返されている議論。小沢幹事長は伝統的保守派と思うが、鳩山首相の「常駐なき安保」論は本気か不明だ。

内田勲横河電機(株)代表取締役会長:米軍撤退の可能性はあるか。核の傘がなくなると日本の安全保障は不安定となる。

藤原帰一東京大学教授:完全撤退はないが、「5月普天間移転決定」が延びれば海兵隊のグアム移転が先送りとなる。海外の基地は戦争しないかぎり確保できない。フィリピンの基地は存続すべきだったとの議論もある。

内田勲横河電機(株)代表取締役会長:鳩山政権が4年続くとどうなるか。

藤原帰一東京大学教授:対抗勢力不在の問題を抱えたかつてのイタリアのようだ。解散総選挙にも踏み込まずポピュリズムが台頭する可能性もある。

渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:米国も穏健イスラム諸国への接近を強めているのではないか。

藤原帰一東京大学教授:直接マレーシア、インドネシアに手を伸ばしているが成果が出ていない。悪玉イメージの少ない日本の出番だが、日本の影響力が落ちている。北朝鮮はデノミも失敗し体制崩壊の危機にあるが、安全保障上の脅威は低い。中国の軍事力は米国を追っている段階で実戦準備はまだだ。中東崩壊懸念への政策立案が必要。日本の出番だ。東アジア共同体構想は中身が不明。

田丸周FEC常任参与:日本では米国研究が重視されず遅れている。メディアも外交・防衛問題の扱いが少ない。国民の理解水準の低さが外交・防衛政策に反映される。米国のように政治任用で学者を閣僚に登用すべきだ。

藤原帰一東京大学教授:米国学会も文学中心で政治、経済学者は少ない。米国通はメディアに多いが持続性に欠ける。バブル崩壊後外国研究が疎かになり、米国留学でも中国に負ける。洞察力なき政策形成に危惧しているが、学者の活用は政府のご意見番程度だ。政治任用は遅れている。経済人の登用もないので是非入るべきだと思う。

中嶋洋平日油(株)代表取締役会長:現在の閉塞感が続くとどうなるか。

藤原帰一東京大学教授:外交面では、世界の課題に対する政策形成に日本が関与できなくなる。日本は軍事大国でもあり責務がある。自ら発信しないと「日本はいらない」となる。戦後経済的に弱体化した英仏も外交政策作りでは存在感を示した。中国は短期間で成長し、東南アジア、アフリカで卓抜な外交成果を挙げているが、日本は燦々たる結果だ。憲法規制なしにアフガン協力が可能だ。アジアでは中国、韓国、シンガポールが中心プレーヤーとなっている。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

< 一覧へ戻る