五味廣文元金融庁長官を招き第22回FEC米国問題研究会を開催=FEC日米文化経済委員会
2010年04月15日更新
リーマンショック後の米国金融機関の不良債権処理状況をテーマに講演
とき
平成22年(2010)4月15日(木)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
平成22年4月15日(木)に五味廣文元金融庁長官を招き第22回FEC米国問題研究会を開催
内容
民間外交推進協会(FEC)・日米文化経済委員会(委員長・徳川恒孝(財)徳川記念財団理事長)は4月15日、五味廣文プライスウォーターハウスクーパース総合研究所理事長・元金融庁長官を招き、第22回米国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。世界的金融危機の起点となった米国金融機関の不良債権処理は、米国経済の本格的回復の必要条件でありその動向は大いに注目される。「リーマンショック後の米国金融機関の不良債権処理状況」をテーマとした研究会には、野村吉三郎全日本空輸(株)最高顧問・元会長、岡崎真雄ニッセイ同和損害保険(株)名誉会長、齋藤宏(株)みずほコーポレート銀行取締役会長、笹森清労働者福祉中央協議会会長・元連合会長、尾崎護矢崎総業(株)顧問・元大蔵事務次官、松尾邦彦国際石油開発帝石(株)代表取締役会長らFEC役員、法人会員が多数出席した。開会に際してFEC副会長の松澤建(学)青山学院理事長は、「五味廣文元金融庁長官は、米国は日本の90年代の不良債権処理の教訓を活かすべき。日本は成長戦略の策定、新興国需要の取りこみ、邦銀の資本の質の強化が課題との見解。出席者と活発な議論を期待したい」と主催者挨拶。五味講師はレジュメに基づき、世界金融危機の要因、危機対応策、再発防止策などについて述べ、講演後出席者と活発な意見交換が行われた。
今回の金融危機が大規模となった背景には、「過剰流動性と世界的不均衡」と「規制の空白における金融行動」がある。発端が、サブプライムローンで、この限られた分野のデフォルトが国際的な金融危機に発展したポイントは証券化だ。この貸付債権が証券化され世界中に販売された。問題は信用リスクを市場リスクに形を変えて売り出すことから、原資産のサブプライムローンは明らかに欠陥商品。担保価値の上昇が止まった途端に暴落する。
金融機関は原資産のリスクが証券化によってどのように分散されたかのトレーサビリティチェックをしていなかった。2006年夏以降、サブプライムローンが続々とデフォルトし始めたときに、その損失がどの証券化商品に発生したかが分からなかった。規制の空白における金融行動だった。
仮に原資産にトラブルが起こった場合も格付け機関が選別し格付けを引き下げるので、どの証券化商品に問題が発生したかが分かるはずだった。しかし、今回格付け機関が行ったのは選別ではなく全世界一律のサブプライム関連証券化商品の格付け引き下げであり、このことがパニックを引き起こした。そもそも格付けの全てが公正に行われている訳ではなかった。サブプライムローンを業者から買い、それを証券化商品に組み替えて売り出す投資銀行はできるだけ高い格付けを望み、受注した格付け機関は発注者と一体になって高い格付けをつける。規制の空白での利益追求が、ここでも行われていた。投資家は万一問題が発生したときに備えてデリバティブを用意しておく。クレジット・デフォルト・スワップは、法律の規制がないため損失保障の契約を結び手数料を取っているが、リスクが顕在化したときに備えるヘッジの準備の義務がなく、一斉にプロテクションの依頼が来ると破綻してしまう。
続いて、わずかな資本と多額の借入で投資するハイレバレッジ経営の商業銀行が巻き込まれた。低金利の短期CPを発行し長期高金利の証券化商品に投資し、長短の金利差が利益となる。問題は短期負債の借り換えだ。資産側の有価証券の価値が下がると新規CP発行資金では前回のCPを全額償還できない。商業銀行に課せられた8%以上の自己資本規制は投資銀行やファンドには適用されず、彼らはハイレバレッジ経営を目一杯享受していた。商業銀行は資産運用先に対して、トラブル発生時の一定限度内無条件貸付けを約束しており、それが不良債権となり商業銀行も巻き込まれていった。一番罪深いのは監督当局だ。監督当局はリスク管理の実態を把握し、問題ある場合先手を打って措置すべきであったが、全くなされなかった。
危機対応について、まず混乱抑制のために米国の中央銀行が膨大なドルを供給し、各国でも特に欧州において膨大な流動性が供給された。しかし銀行が潰れるかもしれないという疑心暗鬼は、解消できない。資本不足が決定的であれば、中央銀行の流動性供給が止まった途端破綻する。この状況を解消するため、財務実態を把握し必要に応じて公的な資本増強を行う。米国の場合、資本増強が順次行われ、金融システムの危機的状況は脱してきている。
金融の機能不全が大きく実体経済が大きなリスクに晒されている。金融機関が健全性を取り戻したとしても、景気悪化の中では金融機関のリスクテイク力が落ち、実体経済が益々悪くなるという負の連鎖が起こる。
現在アメリカの大手金融機関は利益を上げ始めた。内容的には有価証券取引で利益が上がっている。一方、貸付は不良債権比率が5%超えている。そうなると、処理費用、引き分け負担が出てくるため、この貸付を見ると決して成績は良くない。一方、アメリカの地方金融機関は昨年1年で140件破綻し、今年に入っても相変わらず似たような状況が続いている。根本原因は商業用不動産に対する貸付の不良債権化だ。住宅ローンも相変わらず調子が悪い。一般企業向けの貸付も不良債権化が進んでいる。住宅の方も悪い。差し押さえられた中古住宅が相変わらず市場にどんどん出てくる。アメリカの住宅ローンは担保保険を実行すると借金は差し引きゼロになるためだ。恐らく向こう1年位は、金融が充分に機能できない状況というのは続くのではないか。
芹田敏夫青山学院大学経済学部教授:日本の金融機関が比較的、今回のリーマンショックの影響を受けなかった大きな要因の一つとして、金融機関の報酬制度があるのではないか。
五味講師:日本の銀行や日本の大手証券の報酬体系が、日本の金融機関にサブプライムローン関連で大きな損失が出なかったことの主因ではない。ポイントはこの手の商品への投資に慎重だったことだ。資産がリスク、あるいは資産の性格によって管理の仕方が違うことに意識が高い。アメリカの金融機関でも今回の危機にもろに巻き込まれたところとそうでないところとがあり、それはリスク管理の仕方、リスクの取り方の違いだ。
今回の危機は新しいリスクの形態が世界中を覆っている時に、それを管理できるかどうかの実体の把握を当局がしなかったのが、最大の元凶である。マーケットは自由でなければ充分に機能しない。自由に活動させた場合にどうリスクが発生し、それを管理するためにどう手を打つか、その部分が当局に欠如していた。
松澤建学校法人青山学院理事長:格付け会社は元々アメリカでも我が国でも非常に権威のある会社だが、一部ではアメリカでも日本でも問題がある。何とかならないのか。
五味講師:伝統的に格付けというのは一種自由な立場で行われる評価であって、そこに官の都合で介入するのはよくない。基本はそういうことに関与してはいけない。今度は金融庁が登録制を採った以上、立ち入り検査をする体制を整える。格付が然るべき根拠のあるやり方で行われているか、あるいは利益相談の手順をきちんと踏んでいるか等プロセスをチェックするということ。
野村吉三郎全日本空輸(株)最高顧問: EUの中のギリシャはどのくらい世界経済に影響してくるのか。EUはどうなっていくのか。
五味講師:一番の問題はユーロの信認を揺るがすことになるかどうか。ユーロはEUの経済を統合している。EUでユーロという通貨を守るためにはギリシャがデフォルトしないように資金支援をするしかない。政治統合せずに共通通貨を持った弱点が決定的に表れた。IMFが本格的に介入することになれば、ユーロ安円高になりヨーロッパの経済が停滞し、輸出が伸びない中で円高になる。
水沼正剛電源開発(株)取締役:クレジット・デフォルト・スワップは今後も高騰金融市場で残っていくのか、あるいはこれに代わる保険制度が出てくるのか。
五味講師:クレジット・デフォルト・スワップというデリバティブは極めて高価なため有効な製品。CDSを残すポイントになるのは、情報を全て整理して発信し、CDS取引全体の規模の把握ができる透明性を持たせること。日本ではその規制を入れる事が決まった。
同じように証券化商品もやはりトレーサビリティだ。証券化した場合に証券化商品の一部は自分で持つ規制があり、その一部分とは特にリスクが高いFET部分、何か損失が発生した場合最初に損を負担しなければいけない部分なので相当強い規制になる。そこまでやると多分証券化というビジネスのうまみがなくなるので、金融全体の効率にはダメージが大きい。
松尾邦彦国際石油開発帝石(株)代表取締役会長:中央銀行が果たすべき役割とは。日本だけでなく世界的にもBIS規制の新しい基準をクリアするため、金融機関は金を集め、金が皆メガバンクの金庫の中に入ってしまうことの解説を願いたい。
五味講師:今回の危機を受けて今議論されているBIS規制の改定についてはまだ実際の詳細数値等出ていないが、自己資本の質や水準に加えて、銀行業のほかに証券業もやっている人達には負担が重くなる。どこにとっても、それなりのインパクトで自己資本を整備するための体制整備が必要となる。
国際的なシステム作りを統一的に監督することが必要である。その任務を中央銀行にやらせるか、それとも新たに別の協議会で協議することにするかアメリカでは議論になっている。日本の場合は日銀と金融庁の協調という形で進んでいくことになる。アメリカの場合元々監督機関が分立していて、二重三重の監督になっている。その割に肝心のところを見ていなくて、今回の事態になった。アメリカの場合は金融環境という意味で実力が一番高いのは中央銀行である。
尾崎護矢崎総業(株)顧問:この不況から一番早く立ち上がったのは中国である。色々な理由があるのだろうが、やはり国がある程度手綱を握っていることも必要なのではないか。
五味講師:中央主権で、あれだけ国力が大きく適切な指導力があり、周りに知恵のある人が集まり、それから環境的にまだ素材が沢山ある。そこが大きな効果だと思う。成長力が強い状況にあるときは財政政策も効果が出やすい。加えて、為替を統制しているので輸出が安定している。新興国特有の話しではないか。
(前田貴俊FEC企画事業部次長・記)