潮匡人評論家を招き第18回米国問題研究会を開催=FEC日米文化経済委員会
2009年12月10日更新
「今後の日本の防衛産業について」をテーマに講演
とき
平成21年(2009)12月10日(木)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
潮匡人評論家を講師にお招きし、第18回米国問題研究会を開催
内容
民間外交推進協会(FEC)の日米文化経済委員会(委員長・徳川恒孝財団法人徳川記念財団理事長)は12月10日、評論家の潮匡人帝京大学准教授を招き、「今後の日本の防衛産業について」をテーマに第18回米国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問・前会長、福澤文士郎東亞合成(株)取締役相談役・前会長、遠藤良治信越化学工業(株)顧問、今田潔信越化学工業(株)顧問、米澤泰治米澤化学(株)代表取締役社長ら、多数FEC役員・会員が多数出席した。
開会に際して三好孝彦FEC副会長より、「日本の防衛産業は理想の状態には無い。さらに鳩山政権が社民党との連立になり日本の防衛産業を巡る制約がまた一つ増えたと感じている。本日は昨今の政治情勢の変化も含めてお話をお聞きしたい」と主催者代表の挨拶。潮講師よりレジメ資料に基づき、FXの問題、武器輸出三原則等と政府見解、防衛省の防衛生産・技術基盤及び武器輸出三原則について、オフレコを交え率直な見解が述べられ、講演後昼食をともにして出席者と活発な意見交換が行われた。
次期主力戦闘機(FX)について、F22戦闘機が米連邦法により海外輸出できないという理由だけで結果を見ていない。F22を輸入できる見込は1%未満。現在防衛省は第4世代と言われるF15を主力としているが、F22が導入できるかは日本の防衛力に取って決定的に重要な問題。FX問題は日本の防衛産業を象徴している課題。工業会幹部は「先行きの不透明感から撤退企業は増加傾向にあり、国内の生産・技術基盤が失われる恐れがある」と指摘する。一方、国内生産の戦闘機は高額との意見も根強い。生産数が限られる中、ライセンス料など初期費用がかかって割高になるためで、防衛省には「完成品を輸入してもいいのでは」との声もあるが、これは鶏と卵の関係に似ている。現在の主要装備品は全て米国製である。それらとの補完性、関連性を考えると米国製戦闘機を輸入せざるを得なくなる。これらの問題の根本は、武器輸出三原則にあると考えている。
武器輸出三原則等とは「武器輸出三原則」と「武器輸出に関する政府統一見解」の総称で、武器輸出三原則は昭和42年に衆議院決算委員会の佐藤総理答弁で、政府の運営方針として、(1)共産圏諸国旨の場合、(2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合、(3)国際紛争当事国又はそのおそれのある国向けの場合。武器輸出に関する政府統一見解は昭和51年衆議院予算委員会で三木総理答弁で、「武器」の輸出については、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない。(1)三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。(2)三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。(3)武器製造関連設備の輸出については「武器」に準じて取り扱うものとする。となり、この時点で全面的な武器輸出禁止が決定し現在に至っている。その後、アメリカに関する「対米武器技術供与」や「BMD関係の機器」などは一つ一つ例外化を実施して対処してきた。
さらには、昭和58年3月の内閣官房長官答弁で、武器の共同生産を行う意図がない旨の政府統一見解を発表しており、世界各国との共同開発には参加できずFXの現実的な候補は無い状況になってしまっている。
日本の防衛生産・技術基盤の特徴として、我が国には国営の防衛生産工場が存在せず、生産基盤の全てと技術基盤の多くの部分を民間企業が担っている。防衛産業が我が国の工業生産に占める比重は低く、防衛省向け生産額が我が国の工業生産額に占める割合は1%以下である。一方で加工組立度が高く中小企業を中心とした広範多重な関連企業が存在している。防衛産業の防需依存度は3%程度であるが、売上総額が小規模な企業の中には防需依存度が50%を超えている企業も相当数存在している。市場が国内防衛需要に限定され、量産効果が期待できない。少量・受注生産で初期投資が大きく、特殊かつ高度な技術力が必要であり、個々の装備品を開発・生産できる企業は1乃至数社に限定される。また技術者の養成にも多くの時間が必要とされる。このため一企業の撤退が、日本の防衛生産・技術基盤の欠落に直結しうる。
日本の国土の特性、政策等に適合した運用構想が重要で、機密保持上も要求性能を有する装備品等の国内供給能力がなければ支障が生じる。国防上の理由から国外調達が困難な技術の入手も不可欠だ。更には、装備品等を外国から調達する際、可能な限り最新の装備品等を安価に購入できるためのバーゲニングパワー(交渉力)の向上や、防衛力を自らの意思で強化できるという潜在的な防衛力としての抑止効果がある。防衛生産は、日本の経済力・技術力の一部であり、武器輸出3原則の見直しにより防衛装備品からのスピンオフを通じた産業全般への波及、国内雇用創出による経済波及効果が期待できる。
防衛省から主契約企業に発注後、主契約企業から発注を受ける装備品搭載装置や部品を製造する関連企業数は、戦闘機約1200社、護衛艦約2500社、戦車約1300社、と防衛産業は裾野が広い。
国内防衛生産・技術基盤を巡る環境の変化について、主要装備品の調達数量は減少しており、工場等の年間操業時間も過去5年で180万時間以上減少している。近年、中小企業を中心に防衛部門からの撤退等の事例が見られ、今後こうした傾向が続けば、装備品の調達に大きな影響を及ぼす恐れがあり、懸念している。
輸入調達額は過去20年間、概ね10%前後で推移しているが、国内調達の内5千億円程度がライセンス国産によって調達されている。また、国内企業が装備品を製造する際に必要な部品や技術などを海外から調達する割合は上昇傾向にある。
世界の防衛産業は、防需売上額上位25社中、三菱重工業を除き欧米の企業が全てを占めており、上位にランクされる企業の防需依存度は高い傾向にある。また企業再編により規模の拡大、競争力の強化を図っている。欧米の主要国間においては、装備品の高度化や欧米の安全保障環境の変化等を背景として、国際共同開発が進展している。
中長期的かつ安定的な防衛力の維持・向上が国内基盤の喪失から支障をきたす怖れがある。「防衛生産・技術基盤」の維持・育成は安全保障政策の基礎であり、「選択と集中」により維持・育成すべき防衛生産・技術基盤の明確化、コスト抑制、優れた装備品調達の施策検討・推進が今後の方向で、政府統一見解の範囲内で防衛省が公式に発表している方針である。
現実的に今後日本が米国と戦争することはあり得ない。日本が米国に宣戦布告した段階で米国は日本に武器輸出を止める。自力で戦うことになる日本の自衛隊は張り子のトラと化す。仮に米国と同じ状況を日本が近隣諸国で構築できたとしたら、日本を敵視する国が日本に宣戦布告した段階で、日本は武器や装備品の輸出を止めればよく、大変な抑止力になると考えられる。
また、仮に日本が海外に武器輸出することになれば、経済波及効果は少なく見積もって30兆円とも言われており、武器輸出三原則等をやめるだけで税源の問題も解決される。
折角政権が変わったので、自民党政権が作ってきた武器輸出三原則等の撤廃を民主党政権で是非実現して欲しいと願っているが、来年の参議院選挙までは、社民党との連立政権でもありしばらく時間が必要だ。
三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問:潮講師の言われた通り今度の政権で武器輸出三原則等を見直していただければいいが、残念ながら遠のいた感がある。現状をどう見ておられるか?
潮講師:普通に考えればその通りだが、一つ鳩山内閣に好意的に考えると集団的自衛権について国会で質問を受けて、当面は変えないと答えている。鳩山首相自身は憲法改正論者であり著書まで出版している。私は福田内閣よりは可能性が有ると考えている。あるいは小沢民主党幹事長も自民党幹事長時代に書かれた著書は普通の国にしようと主張されており、武器輸出三原則等を解除する可能性はなくはない。
馬締和久阪和興業(株)取締役:沖縄から米軍がグアムに移設し出て行った場合、自衛隊がその後の防衛を行うといくらぐらいの国家予算が必要になるのか
潮講師:仮に在日米軍と同じ能力を備えるとなると思いやり予算の比ではなく、現実的に無理である。空母、原子力潜水艦等を持つことは無理である。普天間に関することだけに限定すると、グアムに移転するのは800人だけ。もともとは、基地負担の軽減と抑止力維持の両方の要求を満たすため辺野古沖に普天間を移設させ、更に8千人をグアムに移転させる。ちなみに日米の合意として自衛隊の福岡県の築城基地と宮崎県の新田原基地を普天間の代わりに使わせることとなっている。
馬締和久阪和興業(株)取締役:有事のとき一番早く逃げるのは自衛隊では無いかとの意見もあるが、本当に役に立ってくれるのか?
潮講師:ご指摘のようなご心配は全く必要ない。例えば私は実際にサマーワ駐屯地の中に民間人として唯一入り終礼まで取材したが、メディアが入れない基地内でも寸分の誤差もなく車両が並んでおり、軍隊の基本動作がしっかりと行われている。厳しい気象条件の中で、尚かつ銃弾が飛んでくるなかで皆イキイキと勤務していた。靴も磨かれ服装もしっかりとしていて志気が高かった。自衛隊員は日々有事にそなえて訓練を積んでいる。
今田潔信越化学工業(株)顧問:自衛隊の装備として、三菱重工業を頂点として約五千社の中小企業があるとのことだが、装備品の緊急補給能力も含めて、今の自衛隊の潜在的な防衛能力は、アジア・オセアニア地域の中でどのような位置づけか?
潮講師:
緊急補給能力は0に近い。他方、アジア・オセアニアで中国以外は各国の主要な装備品は米国製で、日本と大差はない。国産で主要装備品を揃えられる国は少ない。但し、F22のステルス戦闘機のレーダーに映らないシステムは日本製である。
遠藤良治信越化学工業顧問:最近テレビや新聞等で、新政権に代わり日本の防衛や有事の対応について全く欠落しているのではと心配していた。沖縄の問題もいざと言うときのことは全く抜きにして、平和ボケの人達が話しているようで案じていた。しかし、本日のお話をお聞きし防衛省の方々がしっかりと考えていただいていることに安心した。最近中国の好き放題にさせている政府を心配している。
潮講師:現政権の長島防衛政務官は、論客の自民党議員よりも防衛問題がよくわかっており、考え方もしっかりされている。
(前田貴俊FEC企画事業部次長・記)