鈴木宗男衆議院議員を招き第101回FECロシア問題研究会を開催=FEC日露文化経済委員会
2009年12月09日更新
「北方領土問題と対ロシア外交」をテーマに講演
とき
平成21年(2009)12月9日(水)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
鈴木宗男衆議院外務委員長を講師にお招きし、第101回ロシア問題研究会を開催
内容
FEC日露文化経済委員会(委員長・内藤明人リンナイ(株)取締役会長)は12月9日、帝国ホテル東京に鈴木宗男衆議院議員を来賓として招き、第101回ロシア問題研究会を開催した。開会に際して、FEC理事の木島輝夫元アルゼンチン大使より、「鈴木先生はロシア問題のみならず政界で有数の外交通。「坂の上の雲」のTV放映が始まったが、強大な隣国の出現等、今も百年前と似た国際環境にあり、外交が一層重要な時代。本日の講話をFECの今後の活動基盤に生かしたい」と主催者挨拶。鈴木宗男議員は、長年のロシア外交の実績から、鳩山内閣の発足に際して衆議院外務委員長に就任している。また11月30日のナルィシュキン・ロシア大統領府長官を招き開催した第2回FEC日露フォーラムでは、「領土問題は名誉と尊厳を尊重して交渉する」と発言した。研究会には、齋藤 宏(株)みずほコーポレート銀行取締役会長、大戸武元(株)ニチレイ相談役、中嶋洋平日油(株)代表取締役会長、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、尾崎護元大蔵事務次官等、FEC役員・会員を中心に多数が出席した。鈴木宗男議員は、「北方領土問題と対ロシア外交」をテーマに、歴代の首脳外交の内幕や、今後の返還交渉の道筋についての所感を述べ、講話後出席者と昼食を共にして活発な質疑応答・意見交換を行った。
ソ連がロシアに代わり、北方領土問題は、「話し合いで解決する」ことが担保された。日本政府の基本的立場も、「四島一括即時返還」から「四島帰属問題を解決し日露平和条約締結」へ変化し、返還時期も「日本への帰属が確認されれば柔軟に対応する」へ変わった。
日本は日ソ中立条約を無視したソ連の対日参戦を批判するが、日本も日ソ中立条約締結の前年に日独伊三国同盟を結んでおり、お互い様だ。この事実には触れない方が得策だ。56年の日ソ共同宣言では、「平和条約の締結後、歯舞、色丹を日本に返還する」と記され、両国国会で批准された。73年の田中・ブレジネフ会談で、田中首相の剣幕にブレジネフ書記長は頷き、「ブレジネフは領土問題が未解決である点に合意」と日本側は記録したが、その後のロシアの態度は「領土問題は存在しない」と、認識が異なっていた。ソ連がロシアに代わり、93年のエリツイン・細川会談で「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」(東京宣言)と確認された。当時の官房副長官が鳩山氏で、5通りの返還シナリオがあった。プーチンは2000年に「56年共同宣言、東京宣言は有効」と発言、翌年の森首相とのイルクーツク声明において文書化された。56年の日ソ共同宣言、東京宣言、イルクーツク声明が重要だ。
政治は運動ではなく交渉。結果を出すことが重要だ。自分が仕えた故中川一郎氏は、「ソ連共産党相手では無理。戦争で負けたものは取り返せない」と、領土問題は一度も口にしなかった。今週、ゴルバチョフ元ソ連大統領を鳩山首相に合わせた。メドベージェフ大統領にも近いゴルバチョフを再評価しても現政権にマイナスにならない。彼は、91年に海部首相とのマラソン会談(4日間16時間に及ぶ最長の日露首脳会談)で、北方四島の名前を挙げて、「領土画定の問題解決に向けて話し合おう」と言った最初の指導者。ペレストロイカ(改革)、グラスノチ(情報開示)という言葉も有名だ。ビザなし交流はゴルバチョフ・海部会談で決まったが、当時自分は外務政務次官で、議員、閣僚として戦後初の北方領土訪問者となった。ソ連がロシアに代わり、行動すべきと考えた。
日露関係は橋本、小渕、森政権で前進したが、小泉政権以降後退した。小泉首相は01年サミットで「四島一括返還」に言及し、プーチンは「政権交代で政策も変わるのか」と当惑し態度を硬化させた。小泉首相は後に「四島の帰属が先」と修正したが、麻生首相に至る日本の対米追随外交にロシアは冷ややかだった。外交は積み重ねが重要であり、橋本首相は経済同友会の「対露三原則(信頼・相互利益・長期的視点)演説」で信頼関係を構築した。自分は鳩山首相に「クレムリンの懐に飛び込むべし」と進言し、首相は所信表明で「ロシアは重要なパートナー」と発言し、ロシアから好感された。先月のFECフォーラムでナルィシュキン大統領府長官は、前原国交相の根室発言(「ロシアが不法占拠」)に対し「余計な発言」と反発した。8割が返還反対のロシアの国民感情を反映したもので、前原発言は「鳩山内閣は二重基準か」とロシア側の誤解を招いた。
空想的解決論ではなく現実論で結果を出すのが政治だ。01年にイルクーツクで森首相はプーチンに歯舞群島・色丹島の引き渡しと国後島・択捉島の帰属問題を並行して交渉する並行協議方式を提案したが、1ヶ月後に小泉政権に代わり進まなかった。外交は相手のある交渉で、民主主義とは折り合いをつけること。信頼関係に基づき話し合いで解決することだ。橋本・エリツイン会談時には自分や外務官僚に交渉の土台作り役がいたが、鳩山政権にはプレーヤーが不在で日露関係の停滞が懸念される。ゴルバチョフ・海部会談は貴重であったが、次のエリツインはゴルバチョフ嫌いで健康も害した。「2000年までに平和条約締結」の合意下で、橋本首相は「川奈提案」を出した。四島の帰属を確認した後、当面ロシアの施政権を認めるという「香港方式」だ。首脳間で一歩踏み込めば新しい展開も可能であったが、エリツインは提案を事務方に任せて魚釣りに行ってしまい、大魚を逃した。次の小渕、森政権時代にもシャトル外交を行った。橋本、小渕、森政権のロシア外交の良い流れを鳩山政権で取り戻したい。国際司法裁判所への提訴や米英の力を借りる案もあるが無理だ。領土問題は、90年以降3年間サミットの議題となったが、以後は「二国間で解決すべし」とされた。
今日本の漁民はロシア領海でも操業している。メドベージェフ、プーチンは「二島は返す義務がある」と認識しており、領海で可能な共同管理は陸でも可能だ。米国も時間をかけて南方領土を日本に返還した。奄美は7年、小笠原は17年、沖縄は27年かかり返還された。政府は閣議了解で「日本国民を北方領土に入れない」方針であるが、ロシアは巨額投資でクリール諸島開発を進め、欧州、中国から資材を導入し外国人労働者を入れている。日本は入口で止まっていないで思いきった外交をすべきだ。出口をどうするかが外交だ。谷内前外務次官の「3.5島返還発言」には反対だ。「四島返還」の旗を下ろさないで交渉すべきだ。「四島は係争地域」と認めている中で面積を分割すべきでない。この地域は今や米国にとって戦略的重みはない。日本が胸襟を開くべきだ。
鳩山首相は祖父とともにロシアでビッグ・ネーム。返還交渉の好機であり、ここで解決できなければ永遠に無理だと思う。鳩山首相は、「半年以内に交渉の道筋をつけたい」と述べた。来年度予算編成の後が勝負時期で、サミット前に日露首脳会談をすべきだ。夏の参議院選までに、北朝鮮問題や経済不況は動かせないが、ロシアは動かせる。国益の観点からも、是非鳩山政権の間に前進させていただきたい。
田丸 周油研工業(株)常勤監査役:ゴルバチョフが鳩山首相へ話した中身を伺いたい。
鈴木宗男衆議院議員:「対話の環境作りが必要」と述べ、ナルィシュキン長官の認識と一致している。前原発言はロシアで非生産的発言と強く反発された。日本のメディアの北方領土問題の扱いは沖縄と比べて低い。
木島輝夫元アルゼンチン大使:ゴルバチョフは今や数少ない勢力であるが、ロシアの現政権との関係はどうか。
鈴木宗男衆議院議員:メドベージェフから誕生日に生花が贈られた。FECフォーラムが袴田教授の話(「「ロシアの不法占拠」発言が何故今問題なのか))で終わっていたら、ナルィシュキンは怒っただろう。自分が指名され、「ナルィシュキン長官の発言は当然」と発言させてもらって良かった。
廣瀬修二住友商事(株)特別顧問:経済界に「四島返還は無理」との声もあるが、外務省も同様の見方ではないのか。
鈴木宗男衆議院議員:「四島一括返還」と「四島帰属の確定」は違う。政府は立場を変えたが、四島の返還方法について外務省は国民に明示してない。
大戸武元(株)ニチレイ相談役:「四島一括返還」は無理と思うが、「四島返還」の旗は下ろすべきでない。
鈴木宗男衆議院議員:元島民も7割が、「四島返還は一括でなくてもよい」との意見。東京宣言で四島の帰属問題解決が担保されているので、二島返還では終わらせない。
武居信男蘭日貿易連盟日本代表:ソ連がロシアに代わり、領土問題に対するロシア人の国民感情も変ったのか。変った根拠は何か。
鈴木宗男衆議院議員:民主主義は信用で成立する。ロシアはG8国だ。首脳会議で担保された内容は日本の歴代総理が天下に公言したもの。これ以上の担保と信用はない。日本の領土問題は北方領土と竹島しかない。韓国との交渉は始まっていないが、ロシアは交渉のテーブルについている。知恵と交渉にかかっている。
齋藤 宏(株)みずほコーポレート銀行取締役会長:領土問題に対する鳩山首相の見識と熱意はどの位か。外務委員長として外務省のロシア政策、日米関係をどう見ているか。
鈴木宗男衆議院議員:鳩山首相の情熱は強い。裁判中の自分を公職に就かせ、環境作りを頼まれた。ナルィシュキンとの会見の前に、前原発言の件を説明し助言したが、鳩山首相の勘は優れている。胆力もあり大勝負時のしたたかさはあろう。小沢幹事長は外務省に厳しく、「米国派を変えねばダメだ」と言っている。ロシア側も外務省の現布陣を信頼していない。変える必要があろう。小沢氏もロシアに関心あり、自民党幹事長時代に「四島を3兆円で買う」話をもってきた。金丸氏は「安すぎないか」と言っていた。この話はエリツインまで上がらず消えた。岡田外相は中国人脈があり中国への思い入れも強い。日露問題は総理に従う立場か。普天間基地移設問題について、オバマ大統領とゲーツ国防長官には温度差がある。民主主義を強調するオバマに鳩山首相は共感しており、首相の所信表明の中で米軍再編について、「沖縄県民の思いを大切に取り組む」というフレーズは自分が付けた。沖縄は反自民色が強い。沖縄県知事の判断を尊重し、名護市長選も待つべきだ。石油がないから日本は米国に頭を下げるがロシアから買えばよい。日米関係の基本は共有しており、工程表は自民党時代に作られた。時間がかかっても良いと思う。移設には4年かかる。日米同盟といっても、岡田外相はオバマに会えない。岡田外相も意地を示し局長級のキャンベル次官補には会うべきでない。駐留米軍でもエリート意識の強い空軍とやんちゃな海兵隊は仲が悪い。
渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:民主党、ロシアの権力の二元化についての見解を伺いたい。
鈴木宗男衆議院議員:小沢氏は政策(内閣)と選挙(党)の役割分担を明確にし、分をわきまえている。鳩山首相との信頼関係もある。ロシアでは外交は大統領、経済は首相という役割分担。次期大統領は国会で圧倒的力がある統一ロシアの党首プーチンで、円満に交代しよう。日本はプーチンの方が組みやすい。彼は返還交渉の道筋の合意を最初に文書化(イルクーツク声明)した。大統領就任後小渕特使として自分が世界で最初に面会し、首脳会談の日程を固めた。涙を1粒落としながら、森首相と一緒にシベリアの森氏の父の墓参を語ってくれた。人情家だ。
後藤瞬吉チッソ(株)代表取締役会長:無知で発言する知識人やマスコミの偏向報道が多い。四島の帰属問題が国民に明示されていないのが問題だ。「帰属問題が先」という認識が重要だ。
鈴木宗男衆議院議員:その通りで政府の説明不足だ。外務省は政府方針を変えたとは言わず、連合等に対して「四島一括返還」とあおる。「悪いのは鈴木」と、自分が左右両陣営から非難される。自分は政府方針通りに行動してきた。カネにきれいで嘘はつかない。国後島ディーゼル発電機発注で三井物産を選んだのは外務省。商事は米国、物産は共産圏に強いとの判断からだ。自民党で50人の勢力を誇り将来性のあった自分が国策捜査で狙われ逮捕された。根室住民は現実的で、「まず二島でも返してほしい」と言う。時折拿捕や銃撃が発生しているが、自分が政府にいた時は国境警備隊と親しくしそのような事はさせなかった。
木島輝夫元アルゼンチン大使:政府が基本的立場を変えた背景は何か。
鈴木宗男衆議院議員:外務省は右翼を嫌がっていたが、彼らも現実的に変ってきた。高僧の池口恵観氏もロシアを訪問した。
中嶋洋平日油(株)代表取締役会長:「外交は力」というが、日本の外交はどうあるべきか。
鈴木宗男衆議院議員:日米同盟と同様に日露同盟も必要だ。ロシアは資源大国で基礎技術も高い。日本の応用技術力と組めば、資源なき日本にとってエネルギー資源が確保され効果が大きい。サハリンの先住アイヌ民族はロシアで少数民族として認められていた。日本もやっと先住民と認めた。ロシアも理解しよう。アフリカ外交も重要で、熱心に取り組んでいる。日本がアングロサクソンに叩かれた時、欧米に支配されていたアフリカが守ってくれよう。日本の国連安保理常任理事国入り問題に対するアフリカの協力は大きい。外務省は課長以下の応対でアフリカを冷遇しており、アフリカは皆中国を向いている。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)