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名越健郎時事通信社外信部長を迎え「ロシア金融危機と日露関係」をテーマに第95回FECロシア問題研究会を開催

ロシア 日露文化経済委員会

2009年01月14日更新

日露文化経済委員会=現在の世界情勢は、日露関係進展への好機到来かも

名越講師を囲んでの第95会FECロシア問題研究会・昼食会=ホテルオークラ東京

名越講師を囲んでの第95会FECロシア問題研究会・昼食会=ホテルオークラ東京

とき

平成21年(2009)1月14日(水)  12時〜14時

ところ

ホテルオークラ東京

概要

名越健郎時事通信社外信部長を講師に迎え「ロシア金融危機と日露関係」をテーマに第95回ロシア問題研究会を開催。

内容

テーマ

「ロシア金融危機と日露関係」講演と昼食会・懇談会

内 容

FEC日露文化経済委員会(委員長・内藤明人リンナイ(株)取締役会長)は1月14日、ホテルオークラ東京に名越健郎時事通信社外信部長を迎えて第95回FECロシア問題研究会を開催した。FEC役員・会員を中心に多数が出席した。開会に際して、埴岡理事長より昨年12月の内藤FEC副会長のブルガリア大統領叙勲受章に対して祝意が述べられた後に、「名越講師はワシントン、モスクワ勤務もあるメディア界随一のロシア通で著書も多い」と講師を紹介。続いて内藤委員長より、「ロシアのウクライナへの天然ガス供給停止は昨年訪問したブルガリアにも影響を与えている。複雑な国ロシアの諸問題の講話をいただきたい」と主催者挨拶。名越講師は「ロシア金融危機と日露関係」をテーマに、ロシア経済の現況、政治情勢、日露関係の展望について最新情報を交え幅広く講演し、講演後昼食をとりながら出席者と活発な質疑・議論がかわされた。

講演要旨

ロシア経済は新興国中最大の金融危機の影響を受けている。株価は昨年5月の高値から8割近く下落し、12月のGDP成長率は前年比1.1%減へ減速した。今年マイナス成長となれば10年ぶりだ。モスクワの建設工事も殆どが休止しており、不動産バブルもいずれ弾けよう。原油価格70ドル/Bが予算の前提故今年は財政赤字となろう。対ドル・ルーブル相場は23の高値から31へ下落し、失業の増大と企業倒産の多発、銀行破綻も予想される。日本車販売はトヨタが好調、三菱、日産は不振。

外貨保有は6千億ドルから4.5千億ドルへ減少した。ロシア経済は資源マネーが産業多角化に活用されず、製造業が育っていない「油上の楼閣」だ。10年前の通貨危機時には輸入代替産業が台頭したが、最近は輸入増から入超だ。自動車、造船、航空機等の国有化を進め、「生産手段は社会主義、消費は資本主義」と、資源高に胡坐をかいたツケが回っている。都市近郊の水道が未整備などインフラの老朽化も顕著。1300の空港の内300しか使えない。

自動車関税引上げに対する極東のデモで「プーチン退陣要求」が初めて出たのは注目される。8割がサンクトペテルブルグ派の現政権の基盤が揺らぐ可能性あり、「大統領任期の6年への延長」や「反逆罪規制法」により政治的引き締めを図っている。金融危機から新興財閥の株式売却も顕著で、資産争奪を巡る新たな権力闘争が始まった。

国民の目をそらすため、対外膨張主義やファシズムの恐れもある。11月に大統領選挙を控えたウクライナでは、経済苦境下でユーシェンコ大統領の支持率が低迷、ロシアとのガス戦争から親ロ派の台頭も予想される。ベラルーシュ、パキスタン、東欧、アイスランド等の戦略的重要国が経済危機に直撃され、原理主義の台頭(パキスタン)やIMF借款条件による政情の不安定化が懸念される。ロシアがベラルーシュと組み、南オセチアとアブハジアを加えた新連邦国家(ミニソ連)誕生も予想される。スキンヘッド(ネオナチ)は世界に20万人、内ロシアに5万人いる。

日露関係は好機か。90年代の弱いロシアの時両国関係は進展し、領土問題は解決寸前だった。消費好況下で日本ブーム(日本レストラン、柔道、折り紙)が高まっている。メドベージェフ大統領夫妻は緑茶、鮨が好物で日本贔屓。洞爺湖サミット時の警備体制にも好感を持った。メドベージェフ、プーチン共に領土問題に前向きで、日本がつけこむ好機だ。日ロ貿易規模は3兆円と中ロ貿易の4兆円に差をつけられているが、2月からのサハリンLNG輸入が始まれば逆転し首位に立つ。中ロ関係は良好でない。ロシアに中国人は2百万人おり、安価な製品輸入からロシアの入超だ。中国の産業技術で得るものはなくエネルギー価格交渉も難航している。

ロシアは従来の欧州重視からアジア太平洋への関与を指向、当地へのエネルギー輸出シェアを現在の5%程度から2020年には30%へ高める意向。中ロ関係は05年がピークで今後は日本へ関心が向かおう。日本の政局次第だが、グルジア紛争後初めての外遊となるプーチン首相の訪日は3、4月か。原子力協定、LNG輸出、シベリア・パイプライン等が議題となろう。ロシアの欲しい、LNG、自動車、省エネ、高速鉄道等の技術は日本が持っており、領土問題と絡めた外交が有効となろう。

懇談・質疑応答

久保田双日市場開発部ロシア・NISデスク・リーダー:対ロ輸出の7割が自動車。10月以降急減しており、1月から輸入関税引上げの影響も加わり打撃は大。中古車輸入もほぼ停止状態。在庫整理に時間がかかる。トヨタの現地生産は熟練工が定着せず苦戦。スズキは市提供の工場用地の地盤が悪く工事が遅れている。横浜ゴム、ユニクロの進出計画あり。

北道帝人海外事業企画室長:労働者の勤務態度はソ連時代のようだが進出外資間で熟練工の奪い合いが起きている。部品の現地調達が進まず関税優遇措置が受けられない。

水沼電源開発常務執行役員:ガスOPEC設立はロシア主導のガス価格引上げの動き。対中東政策で国際的合意と反する動きもあるか。ファシズム化は現政権主導によるものか。
名越講師:生ガスでは無理。LNGカルテルにしないと高値誘導効果は期待できない。ロシアのイランへの対空ミサイル売却もあり、ガザ紛争でイランと組み米国を揺さぶる可能性がある。イランの出方次第では第5次中東戦争勃発の懸念がある。現政権の独裁体制強化の可能性も。

坂井白翔會主宰・能楽師・日露委員:ロシアは地域格差が大きい。サンクトペテルブルグには文化的PJ多く、日本の文化ゾーンを作る計画もある。

埴岡FEC理事長:ロシアが日本を重視する中で日露関係には好機。総選挙後外交戦略をしっかり構築し、トップ同士が腹を括って責任ある対話ができるか、日本側の問題だ。軽率な行動は大きな禍根を残す。プーチン首相の訪日は2月下旬との内々の打診があったようだ。

中川原三井物産戦略研究所ロシアCIS東欧ビジネス推進センター長:ウクライナへのガス供給停止問題は年中行事でEUを巻き込んだ点が新しい。日本の新聞社説は中立的、冷静な分析に欠ける。ウクライナがエネルギー憲章条約違反しているのにウクライナ批判がない。グルジア紛争時と同じ論調だ。ユーシェンコ大統領は負け戦を覚悟で何故ガス抜き取りをやったのか。ガス公社出身で親ロ派のティモシェンコ首相とプーチン首相間に、ガス主権をロシアに渡す密約があったのではないか。

名越講師:ロシアとティモシェンコ首相の裏の連携もあろう。ウクライナ国民の反ロ姿勢は強く、ガス戦争はロシアが挑発して、支持率低迷のユーシェンコ大統領が乗った構図か。

田丸リケン常勤監査役:両国が未曾有の不況時にプーチン首相が来日し、経済外交、領土問題は進展するのか。

名越講師:ロシアは周辺国(中国、バルト3国、北朝鮮)との国境画定を進めており、プーチン首相の意志も固い。原則論は曲げないだろうが、よりソフトなアプローチをするのではないか。91年は大型借款との組み合わせで領土問題が前進する好機だった。
内藤委員長・リンナイ取締役会長:ロシアには日本の文化・生活様式の移入希望が強い。ロシアでの現地生産には障害も多い。天然ガス開発・輸入と家電製品輸出のバーター取引は両国にメリットあろう。

大戸ニチレイ相談役:ロシアが発展するビジネスモデルは何か。

名越講師:今は国有化の流れだが競争力は落ち成果は少ない。

久保田双日市場開発部ロシア・NISデスク・リーダー:エリツィン時代に否定された産業政策が見直され、機械産業育成の方針だが、民需品は作れない。

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