ガルージン駐日ロシア臨時代理大使を招き第94回FECロシア問題研究会
2008年08月29日更新
グルジア問題をテーマに活発な議論を展開!
とき
平成20年(2008)8月29日(火) 12:00〜14:00
ところ
ANAインターコンチネンタル東京
概要
ガルージン駐日ロシア公使を招き第94回ロシア問題研究会を開催
内容
「グルジア問題はじめ最近のロシア情勢」(昼食会を兼ねて)
ミハイル・Y・ガルージン 駐日ロシア連邦臨時代理大使(10月1日付で外務省アジア太平洋局長に就任)
G・A・オヴェチコ 在日ロシア連邦大使館経済担当参事官(9月26日付駐日ロシア公使に就任)
S・V・ヤーセネフ 在日ロシア連邦大使館広報担当参事官
内藤 明人 民間外交推進協会(FEC)日露文化経済委員長・リンナイ(株)取締役会長
荒木 浩 東京電力(株)顧問・元会長
生田 正治 (株)商船三井相談役・元会長
福澤文士郎 東亞合成(株)取締役相談役・前会長
都甲 岳洋 FEC日露文化経済委員長代行・(株)三井物産戦略研究所特別顧問・元駐ロシア大使
森 敏光 (株)みずほコーポレート銀行顧問・元駐カザフスタン大使
坂井 音重 白翔會主宰・能楽師
新町 敏行 (株)日本航空常任顧問・前会長
米澤 泰治 米澤化学(株)社長
宮脇 宗嗣 民間外交推進協会(FEC)理事
金森 邦夫 国際石油開発(株)常務取締役
久保田三郎 双日(株)ロシアNISデスクリーダー
酒井 明司 三菱商事(株)業務部ロシア担当次長
内田 智久 出光興産(株)海外部海外情報グループ シニア・エコノミスト
内藤 泰朗 (株)産業経済新聞社 論説委員兼外信部次長
埴岡 和正 民間外交推進協会(FEC)理事長
前田 貴俊 民間外交推進協会(FEC)企画事業部次長
開会に際し埴岡理事長が「本日はまことに急なことですが、ガルージン臨時代理大使のたっての依頼で今次研究会を開催します。在日ロシア大使館の資料にコーカサス問題とあるのは大使館の深慮遠謀のことと受けとめてください。」とあいさつ。続いてガルージン代理大使が説明した後に懇談を行った。
[出席者の1人の内藤泰朗産経新聞外信部次長のQ&A]
ロシアのミハイル・ガルージン駐日臨時代理大使が8月29日、東京都内のホテルで、民間外交推進協会(FEC)が主催した同協会役員の日本の財界人らとの懇談会で、グルジアとの紛争について、出席の産経新聞の内藤泰朗外信部次長の質問に次のとおり回答した。
–ロシアがグルジアの領土である南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を承認したことは、国際社会の懸念を呼んでいる。南オセチアも、アブハジアも、人口は小さく、通貨としてロシア通貨のルーブルが使われ、経済をほぼ100%ロシアに依存している。住民の8割がロシアのパスポートを取得している。とても独立国家とはなりえないのではないか。それでも、独立承認をしたということは、ロシアは将来的に、アブハジアはさておき、人口の小さな南オセチアを併合しようとしているのではないか。
回答: 欧州は、セルビアからコソボの独立を認めたでしょう。欧州には、リヒテンシュタインやバチカンといった小国は存在している。国の規模が小さいからといって独立できないという理由にはならない。それ以上に、ロシアが今回、これら2国の独立を承認したのは、彼らが武力攻撃を行ってきたグルジアとは、もはやともに生きていくことはできないと思っていることが背景にある。ロシアは、グルジアに弾圧され、民族浄化の危機に瀕していたこれら2国を保護し、国際社会に対する責務を果たしたのである。
これらの独立国が将来、ロシアへの編入を求めるか否かは、彼ら自身が決めることで、ロシアがとやかく言うことではない。もし、そうした望みがあるのであれば、彼ら自身が住民投票を行い、決めることだ。ロシアは、その結果を尊重するだろう。
–それにしても、これら2地域の住民の8割は、ロシアが国籍を与えた住民たちである。しかも、南オセチアの人口は約7万しかいない。人口が200万いて、内戦の末にセルビアから独立したコソボとは状況が異なる。たとえば、ロシアは今回、他国の領土に軍事侵攻するというオプションのほかに、これらロシア国籍を有する住民たちをロシア国内に避難させるという方法は考えなかったのか。広大な領土を持つロシアであれば、それくらいのことができたのではないか。自国民の生命を重視し、隣国の領土の統一性を尊重するのであれば、そうした方法が検討されてもよかったのではないか。
回答: 私の知る限りそうした方法は検討されていないと思う。まず、ロシア国籍を持つからといって簡単に、住民たちを移住させるというようなことはできない。住民たちは、その土地に生まれ育ち、そこがどんなに小さな領土であっても、また、どんなに人口が小さくとも、そこが故郷なのだ。住民たちを故郷から追い立てるようなことをしてはいけない。グルジアが武力でそうした住民たちの故郷を奪い取ろうとしたという事実を忘れてはいけない。
(ここで、埴岡和正FEC理事長からの話:「今のお話を伺い、ガルージン臨時代理大使が南オセチアの住民たちの気持ちを述べられたが、60余年前、ソ連は、日本固有の領土の北方四島から日本の住民たちをすべて追い出しましたが、北方四島の住民もまったく同じ思いであることを深く理解して欲しい。一日も早い返還を実現したい。この件についての代理大使のコメントは不要です。」)
–グルジアとの紛争で、ロシア軍のグルジア駐留が長引きそうだが、どのくらいの期間になるのか。また、ロシアは今回、紛争当事者となった形で、欧州からの停戦監視要員らを受け入れることになっている。一方、日本は、このコーカサス地方(ロシア語では、カフカス地方)に大きな利害関係もない。ロシアが今後の停戦監視や平和維持活動で日本の自衛隊を受け入れることは可能か。
回答: 停戦監視や自衛隊の派遣については、日本側から何の提案もされておらず、そうした質問に回答することはできないが、難しいでしょう。ただ、日本が、そうしたことはしようとはしないのではないか。それと、ロシアは、紛争当事者ではない。ロシアはあくまで、コーカサス地方の平和と安定を保障する国家であり、これからもこの責務を果たしていくだろう。繰り返すが、南オセチアやアブハジアは、ロシアの歴史と深く結びついている地域であり、今後ともロシアはコーカサス地方に関与し続けていく。ロシア軍の駐留期間については、停戦や軍の撤退などを定めた和平6原則には時間的な制約は設けられていないことも知っておくべきだ。ロシア軍は必要な期間、駐留し続ける。しかし、隣国であるグルジアとの関係も良好にしたいとも思っている。ロシアでは、多くのグルジア人たちが暮らしており、グルジアとの関係は重要である。南オセチアとアブハジアの安全保障が確保されれば、将来的に、ロシア軍が撤収することもあるだろう。ただ、ロシアは、戦争を始めたサーカシビリ政権とは一切交渉はしない。サーカシビリ大統領は、この戦争で自ら権力の座を降りたものと同然である。
もう一度はっきりとさせておくと、ロシアは、南オセチアとアブハジアの独立を支持し続ける。ロシア以外の国が承認しなくとも、ロシアは、その決定を翻すことはない。長い時間が経てば、ロシアの正しさがわかるときがくる。
ガルージン代理大使はこのほかにも、ロシア側の立場や今後の見通しなどについて雄弁に語った。たとえば、冒頭では、日本での報道ぶりが「歪められている」として、ロシアが軍事侵攻した理由が、南オセチアの住民に対してグルジアが行った侵略と破壊行為を働いたことに、ロシア側は「人間の生存権」と「民族自決」の原則を守るために軍事介入を行ったと主張した。
さらに、今回の軍事介入を受けた対ロシア制裁をせよとの声が欧米諸国で上がっていることについて、「そうした制裁行為によって被害を受けるのは、ロシアよりむしろ、対テロ戦争や核の拡散防止などの問題でロシアの協力を必要としている欧米諸国の方である」と警告し、日本については「コーカサス地方の問題は日露の経済関係には影響しない、と日本側の閣僚たちも話している」と指摘した。
文責・産經新聞 内藤泰朗