中島隆晴拓殖大学海外事情研究所助教を講師に招き第47回FEC中東問題研究会を開催=FEC日・中東文化経済委員会
2010年05月25日更新
中央アジアでの日本企業のビジネス展開に向けてをテーマに講演
とき
平成22年(2010)5月25日(火)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
平成22年5月25日(火)に中島隆晴拓殖大学海外事情研究所助教を講師に招き第47回FEC中東問題研究会を開催
内容
民間外交推進協会(FEC)・日中東文化経済委員会(委員長・小長啓一AOCホールディングス(株)参与)は5月25日、拓殖大学海外事情研究所助教の中島隆晴氏を招き、「中央アジアにおける日本企業のビジネス展開に向けて」をテーマに第47回FEC中東問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、松尾邦彦国際石油開発帝石(株)代表取締役会長、山寺炳彦東亞合成(株)代表取締役会長らFEC役員、法人会員多数が出席した。
開会に際して片倉邦雄日・中東文化経済委員会委員長代行・元駐エジプト大使より「現地を頻繁に訪れ政治経済、エネルギーを含め各般の事象に詳しい中島講師より、中央アジアの現在と未来、日本との関係についてイスラム文化圏という観点も踏まえてお話いただきたい」と主催者挨拶があった。中島講師は講演資料に基づき、中央アジア情勢、日本企業のビジネス展開、中央アジア戦略におけるトルコの重要性などを中心に講演を行なった。講演後、昼食をともにして出席者と一問一答の懇談が和やかに行われた。
まず触れなければならないのがキルギスの情勢。4月17日に政変が起こり、暫定政権が誕生した。この政権交代は、北南の伝統的対立構造の中で起こったもの。加えて、民族紛争も起こりつつある。元々中央アジア諸国は多民族国家であり、今回の政変により民族対立、地域紛争が周辺のウズベキスタンに波及する恐れがある。また、中央アジアイスラム原理主義勢力がこの混乱に乗じてキルギス、ウズベキスタン、タジキスタン等の人口密集地域に進出を開始する可能性もある。
中央アジア諸国の経済事情は一時よりはかなり安定した。特にカザフスタン、トルクメニスタンの天然資源に恵まれている地域は新しい石油、天然ガスの輸出ルート開通に成功し需要が大きくなっている。カザフスタンは中国向けの石油輸出が増えている。中国は石油輸出国から輸入国に転じており、地理的にも輸入しやすい陸続きの中央アジアから需要が非常に強い。トルクメニスタンも中国に天然ガスを輸出するパイプラインが開通した。カザフスタンに関しては、少しデータが古いかもしれないが、GDPは世界で79位くらいだと言われ、この20年間でここまで経済的に進展できたのは石油、天然ガスの力が大きい。ウズベキスタンの状況も政治的には悪くない。タジキスタンは政治的には安定しているが、ビジネスを展開する上であまり注目されてない。
現地でのビジネスを阻む要因は大きく2つ。1つは政治的にそれほど安定した場所ではないことと、外資への政策が変更されやすいこと。もう1つは中央アジア各国にとってビジネスパートナーとしての日本企業は魅力だが、日本企業の進出を快く思わないロシア、中国、米国とのバランス調整が難しいこと。こうした経緯から日本企業がビジネスを行うには、現地事情や政財界への人脈が豊富、且つビジネス関係構築のできるパートナーが必要。トルコとの連携強化が有力な手段の一つではないか。
トルコは中央アジアにおける活動実績が豊富。中央アジア各国はタジキスタン以外はトルコ系で、言語的にも文化的にも非常に共通項が多い。ソ連崩壊後、トルコはすぐに中央アジアに入った。トルコの代表的なイスラム組織のヒズメット・グループは非常に幅広い分野で事業を展開している。また、トルクメニスタンにはトルコ人閣僚もいる。特に、繊維省次官のアフメット・チャリック氏は、元々グループの有力な一人で、トルクメニスタン最大の綿花加工工場を経営。ヒズメット・グループは教育活動にも力を入れており、トルコ式教育の学校を設置。水準は世界一。トルクメニスタンの全ての都市にヒズメット・グループの学校があり、ここの学生は親トルコ派のエリートとして政権の中枢、あるいは有力なビジネスマンになる。
中央アジアは親日的だが、トルコ人はそれ以上に親日的で日本企業との協力推進にも意欲的。長期に渡る実績、ビジネス展開のノウハウ、政府関係者とのコネクション、綿密な情報収集網など日本企業が現地で活動するために必要な全てを有している。親トルコ派が最終的に国家の政権中枢を占め、このトルコの「見えざる力」はいつか大国を凌ぐ可能性がある。したがって日本企業はトルコとの連携を活発化するべきだ。
間嶋恒吾サクラインターナショナル(株)代表取締役社長:駐日ウズベキスタン大使からナヴォイ経済特区で医療メーカーの投資を依頼された。
中島講師:医療は非常に需要が高いだろう。トルクメニスタンでも歓迎されるだろう。
桜井正徳豊田通商(株)国際営業部室長:トルクメニスタンの政権交代はスムーズだったが、他の国はどうか。
中島講師:キルギスでは混乱が起きた。基本的に「食べられない国」は混乱が起きやすい。トルクメニスタンは電気、ガス、水道、住宅、教育等が復旧し誰も飢えていなかった。ウズベキスタンでは混乱が起きる可能性がある。カザフスタンは、権力があるうちにしっかり固めれば上手くいくかもしれない。
渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:インドと中央アジアの関係はどのようになっているか。
中島講師:インドも石油、天然ガスが足りず投資話はあったが、パキスタンやアフガニスタンを経由する輸送ルートのため計画が進んでいない。
渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:以前、パキスタンのエネルギー大臣は’several different tribes’が非常にネックだと言った。tribesはどのような役割やポジションにあるのか。
中島講師:近代国家の法律はあるが、それ以上に注意されるのが部族グループ。中央アジアの国を滅ぼす要因になるかもしれないと言われている。
松尾邦彦国際石油開発帝石(株)代表取締役会長:中央アジア各国は求心力やヘゲモニーを持つ国の下にまとまることはあるか。
中島講師:中央アジア各国は自分の利益になるような働きをする国につくが、一つの外国勢力にヘゲモニーを取られては困るというのが基本的な考え。
今田潔信越化学工業(株)顧問:トルコ人が閣僚になっているがその国の民族構成もトルコ系なのか。国籍が無くても閣僚になれるのか。
中島講師:トルコ人の祖先はトルクメントやウズベクで「我々は2つの国家であるが、1つの兄弟である」と言っている。トルコ人の活動が予想以上に成果を上げた証。トルコ人は二重パスポートを持っている。
坂幸二伊藤忠丸紅鉄鋼(株)経営企画部市場総括チーム市場総括チーム長:中央アジアの財力は天然資源だが、アメリカ、ロシア、中国等列強はこの地域をどう捉えているか。将来的にスンニー派で一つの経済圏を作るのか。イラン、アフガニスタンと経済的繋がりはあるのか。
中島講師:中央アジアには確認されているだけで500億バレルの石油あり、アメリカにとって魅力だ。中国も同様。中国は自分達の勢力圏を中央アジアから南西アジア、中東に広げていく考え。ロシアは安全保障のため重要な地域と捉え死守したいと思っている。ヨーロッパも石油、天然ガスが足りず中央アジアに注目している。中央アジア各国はEUのような統合は考えていないだろう。トルクメニスタンはイランと関係がある。タリバン時代のアフガニスタンとも仲が良かった。
片倉邦雄元駐イラク大使:若い世代でイスラム教が浸透しているのか。
中島講師:浸透しているが我々の宗教観に近い。土着の宗教や仏教など要素もあり、独特のイスラム世界。
前田貴俊FEC企画事業部次長:核の平和利用について中央アジア諸国はどのように考えているか。
中島講師:カザフスタンをメインにウズベキスタン、トルクメニスタンは第三の資源として核を捉えている。問題はこれに目をつけるテロリストが多いこと。パキスタンのカーンネットワークはアルカイダに核兵器製造用物資を流していたが、その橋渡し役が中央アジアのイスラム原理主義勢力だった。核のゴミが十分な兵器になることから平和利用に取り組まねばならないという話は出ている。
(前田貴俊FEC企画事業部次長・記)