日印原子力協力フォーラムを開催-インドにおける原子力の平和利用に向けての日印協力について-
2010年03月29日更新
インドよりマニ・シャンカール・アイヤール元石油天然ガス大臣及びシャム・サラン前インド気候変動問題担当特使を招き、基調講演とパネルディスカッションを実施
とき
平成22年(2010)3月29日(月)13時30分〜15時30分
ところ
帝国ホテル東京「富士の間」
概要
3月29日にインドよりマニ・シャンカール・アイヤール氏とシャム・サラン氏を来賓にお招きしてFEC日印原子力協力フォーラムを開催した。
内容
民間外交推進協会(FEC)・日印文化経済委員会(委員長・荒木浩東京電力(株)顧問・元会長)と(社)アジア国際交流機構(AIS)は3月29日、インドよりマニ・シャンカール・アイヤール元石油天然ガス大臣及びシャム・サラン前インド気候変動問題担当特使を招き、日印原子力協力フォーラムを帝国ホテル東京で開催した。FECは調査団派遣や協力協定締結など、インドと21年に亘り活発な交流を行っている。好調な経済成長を続けるインドは慢性的な電力不足問題を抱え、今後電力需要の大半を原子力発電で賄う方針で、20基以上の原子力発電所の建設を計画している。既に米国、フランス、ロシアと原子力協定を締結し原発機器の発注しており、日本の原発技術への期待も大きい。フォーラムは、電気事業連合会、(社)日本電機工業会、凸版印刷(株)、(財)日印協会の協賛及び外務省、経済産業省、在日インド大使館の後援により催され、FEC会員のほか、在京大使、官界、経済界、報道各社から約200人が出席した。
FEC日印文化経済委員長代行の山田中正元駐インド大使の開会挨拶の後、日印文化経済委員長の荒木浩東京電力(株)顧問・元会長が、「本日はインドからアイヤール元石油天然ガス大臣とサラン前インド気候変動問題担当特使をお迎えし、日本側専門家と共に「原子力の平和利用に向けての日印協力」のパネルディスカッションをしていただきます。インドの大規模な原子力発電増設計画は、直面する地球温暖化対策上からも必要。日本は原子力発電の優れた技術と能力を持っており、両国間で原子力の平和的利用の協力はどのようにすべきか、忌憚のない意見交換をしていただきたい」と主催者挨拶。直嶋正行経済産業大臣とシン駐日インド大使の来賓挨拶に続いて、フォーラムがパネルディスカッション形式で行われた。
【直嶋正行経済産業大臣挨拶】
原子力はエネルギー安定供給と気候変動問題に同時に対応できるエネルギー源としてインド・米国など、世界で導入・拡大の動きが活発。原子力の国際展開、経済成長の視点が重要で、電力会社を司令塔とする一元的な体制の構築、パッケージ提案を行う体制作り、公的金融機関のリスクテイク範囲の拡大を検討中。日印首脳の合意を踏まえ、日本の軍縮不拡散政策とのバランスを念頭に置きながら協力の可能性を検討したい。世界最先端の技術力を有する日本とインドとの原子力協力推進により、インドの原子力平和利用はさらに進展すると確信する。
【シン駐日大使の挨拶】
インドは民生用原子力分野で国際協力の強化を目指す。原子力供給国グループ(NSG)が
2008年9月にインドに対する原発輸出解禁を承認し、インドと国際原子力機関(IAEA)の間で様々な取決めが決定された。その後、米仏露英その他4カ国と、2国間協定が結ばれた。カナダとも合意し、韓国とも交渉中だ。日本とも2008年以降首脳会談でこの問題が議論されている。
2009年12月の首脳会議では、原子力は安全で持続可能な環境汚染しないエネルギー源として重要な役割を果たす可能性があることで合意した両国は戦略的グローバル・パートナーシップを構築しており、民生用原子力も合意可能と確信する。
パネリスト・モデレーターの5人(左から十市勉氏、マニ・シャンカール・アイヤール氏、シャム・サラン氏、近藤洋介氏、吉村真人氏) |
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マニ・シャンカール・アイヤール元石油天然ガス大臣 |
シャム・サラン前インド気候変動問題担当特使 |
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十市勉日本エネルギー経済研究所専務理事 |
近藤洋介経済産業大臣政務官 |
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吉村真人日本電機工業会原子力国際化対応特別委員長 |
質問を行う平林博日印協会理事長・元駐インド大使 |
[パネルディスカッションの概要]
【アイヤール元石油天然ガス大臣】
1988年、ラジブ・ガンジー首相が国連で核兵器のない世界秩序の行動計画を提唱した。2010年迄に3段階で核兵器を廃絶し、核兵器のない世界にしようという提案だ。インドは98年核保有国になり、パキスタンもインドに追随、世界で複数の国が現在極秘に核兵器能力をもつ。インドは、核兵器の拡大競争には参加せず、核の先制不使用を約束している。今後も我々は、普遍的で無差別な目標の時間を設定した核兵器の廃絶を提唱し、他方、発電という平和目的に原子力を幅広く利用する。気候変動面でも新たな貢献をしたい。日本のエネルギー効率の高さに感銘を受けている。日本の協力によりインドは最悪の自動車製造国から21世紀には世界のデトロイトになりうる国となった。核エネルギーにおける安全性は日本の協力によりさらに高められる。インドの原子力平和利用に対する日本の協力の拡大を希望する。
核兵器不拡散条約(NPT)は不平等条約だ。非核兵器国と核兵器国の義務が不平等。ラジブ・ガンジー首相の行動計画を再考し、原子力の全ての側面において、気候変動に対する影響を緩和し、全ての国の経済発展が可能となるプロセスを開始すべきと思う。
【サラン前インド気候変動問題担当特使】
日本とインドは民生用原子力協力の可能性を探っていかねばならない。唯一の被爆国として、
NPTを重視する日本の立場をインドは理解している。日本でもインドが核保有国になったことは知られているが、核の安全保障に関するインドの立場は知られていない。インドは日本と同様、核兵器の完全廃絶を提唱している。インドはNPTには非加盟だが、核不拡散実績は完璧だ。インドから技術や機器が第3国に移転された事実は全くない。2005年には大量破壊兵器法を施行し、広範な輸出規制を実施している。インドは濃縮再処理技術の第3国移転禁止を約束し、自発的に核実験を停止している。また、兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約に参加の用意があるが、現在パキスタンの反対により交渉は中断している。インドは核軍縮を推進し、核の先制不使用、非核保有国への核不使用を宣言している。インドは核兵器のない世界の実現を目指しており、米オバマ大統領も同じ理想を語っている。日本もインドと手を携えて、この取り組みに参加することを希望する。
民生用原子力協力は大きな課題に直面している。原子力を入れても日本のエネルギー需要の
80%は海外依存。インドも石油の70%を輸入し、2030年には90%への上昇が見込まれる。発電の主力は石炭で、今後予想される石炭不足に対し、既に石炭輸入が始まっている。インドは急速に経済が発展しており、気候変動に与える影響を考えると、大きな制約だ。日本と同様原子力の急速な拡大が見込まれる。インドと日本の原子力開発の戦略には重要な類似性がある。日本は閉じた核燃料サイクルという戦略をもつ。高速増殖炉(FBR)により使用済み燃料を再処理すると、廃棄量を減らし、ウラン依存も大幅に削減できる。インドはトリウムを活用し最終的に高速増殖炉を使用するという3段階の原子力開発戦略を持つ。両国ともFBRの早期商業化の計画があり、日本の再処理施設の経験と合わせて協業できれば非常に有益だ。
2008年9月NSGによるインドとの民生用原子力商取引の再開決定後、様々な友好国との間に2国間協定が結ばれている。ロシアとは既に2基の1000メガワット原子炉建設に合意しており、更に4基をクダンクラムで建設し、ハリプールで2基建設する計画が合意された。米国とはインドの最初の再処理権取決めの合意が近い。日本も同様の権利を持っている。最終的には1万メガワットの追加的な原子炉建設になる。核燃料を含めてフランス、アルゼンチン、カザフスタン、ナミビア、モンゴルと2国間協定が合意された。カナダとは既に合意が確定し、正式決定を待っている。韓国とも近く交渉開始する。2030年までに6万メガワットの発電能力実現が目標だ。日本も是非参加していただきたい。インドの設備能力4千メガワットに対し、47,500メガワットの日本の能力は18,000メガワット追加される計画だ。インドの今後30年の建設計画は日本よりも大規模で日本の原子力産業に大きな可能性がある。インドは日本が主導する国際熱核融合実験炉(イーター)にも、大きな貢献をしている。日本は中国に支援をしており、インドに対しても同様な協力を検討いただきたい。
【近藤洋介経済産業大臣政務官】
鳩山首相は温室効果ガスの90年比25%削減を宣言し、原子力政策の推進を明確にした。鳩山政権の新成長戦略の柱がアジアとともに生きることであり、国内の原子力発電の新増設に限らず、アジア各国で日本の技術力を展開するという、原子力の国際展開が鳩山新政権の成長戦略の大きな柱。政府は公的ファイナンスを活用し日本企業の参入を支援する。新規導入国に対しては安全体系構築、インフラ全体の整備、燃料供給、資機材の調達、建設、運転、管理等、システム全体の輸出を推進する。インドは大変ポテンシャルの高いマーケット。軍縮、核不拡散政策の観点も含め、日印閣僚級エネルギー対話を活用し、可能性を探る。日本の各国との原子力協定締結状況は遅れている。世界のトップ企業とアライアンスを組んでいる状況にも関わらず、商談で敗退している。原子力政策、国際的なシステム輸出戦略が必要だ。原子力に限らず石炭、火力、スマートグリッドといった送配電網の効率化、エネルギー環境分野での連携をインドと組み、ウィンウィンの関係を築きたい。
【吉村真人日本電機工業会原子力国際化対応特別委員長】
昨年米印の原子力協定が署名され、米企業のプロジェクトが始動しており、日本もインド協力を迅速に考えなければいけない。2030年までの60ギガワットの新規軽水炉の建設計画は、既にフランス、ロシア、米国との協力に基づき建設が開始されている。米仏企業がプロジェクトを推進している中に当然パートナーとしての日本企業の参画も期待される。燃料のサイクル、FBR等長期的な技術協力の可能性は大きい。日本の原発運営能力は世界でも最高水準。世界各国の原子力開発計画に日本企業の豊富な経験を提供し貢献することが、日本の使命と思う。インドと日本の原子力協力協定締結を産業界は強く期待している。
【十市勉日本エネルギー経済研究所専務理事】
政府間の原子力協力協定がないと原子力協力は前進しない。経済産業省は前向きに協議を進める方針と理解するが、核不拡散の立場から外務省の立場は必ずしも同じではないようだ。NSGの「インドへの核燃料・機器提供の特例承認」に日本は賛成したが国内批判も多かった。
【近藤洋介経済産業大臣政務官】
原子力の国際展開の必要性は岡田大臣も充分理解されている。手順、外交配慮はあるが、基本的な方向感は同じと認識している。
【吉村真人日本電機工業会原子力国際化対応特別委員長】
原子力損害賠償に関する法整備の見通しを伺いたい。
【サラン前インド気候変動問題担当特使】
原子力責任限定法が議会で審議中。論点は事故の場合の賠償責任部署、時期に適った補償金支払い等だ。法案通過を期待している。
【十市勉日本エネルギー経済研究所専務理事】
日本ではインドの原子力政策が充分理解されていない。インドはNPT不参加だが、事実上それ以上のことをやっている。正しい情報に基づき日本はどう対処するか国民的な議論が重要だ。
【平林博日印協会理事長・元駐インド大使】
インドが核実験を行った時に駐在していた。2000年の森喜郎元総理来印以来日印関係は修復され、今も二人三脚で日印関係発展のために努力している。日印原子力協力が進んでいないことを残念に思う。パネリストに注文とご質問を申し上げたい。鳩山内閣はインドとの原子力協力協定締結に躊躇している。インドが核実験を行いNPTに参加していないことに対するこだわりがあると思うが、インドは核の廃絶、核の不拡散に熱心だ。現状を是認し早く踏み切っていただきたい。
インドに対しては、包括的核実験禁止条約(CTBT)への早期署名、批准を希望する。インドが加入しても米国、中国が未批准でありすぐ発効する訳ではないが、世界に非常に象徴的だ。原子力平和利用協力について、FECの会議は非常に意義がある。両国政府、民間も、インドの核に関する正しい理解を持つように、様々な機会を設けて発信していただきたい。
【近藤洋介経済産業大臣政務官】
日印エネルギー対話の枠組みができており、直嶋大臣が5月にインドを訪問し会議を開く。閣僚間の対話の中で実務的な議論を重ねていくことが大事。
【吉村真人日本電機工業会原子力国際化対応特別委員長】
民間は、現場の生の情報を政府とも共有してきたが、前進に向けて今後も積極的に表明していきたい。インドの軽水炉は2018年から20年の間に運転開始が始まる。設備や技術が決定される前のこの1,2年は非常に重要。できるだけ早くインドとの具体的な協力を進めたい。
【アイヤール元石油天然ガス大臣】
サラン氏の方が政府の公式見解に近い。私は個人的な見解。CTBTとカットオフ条約(FMCT)はいずれもラジブ・ガンジー行動計画の抽象をなすもの。今提示されている文章と行動計画の差は、行動計画は将来の核廃絶を目指すが、CTBT、FMCTは署名しても、核廃絶は実現しない。重要なのは核廃絶の約束だ。その約束がなければCTBTが発効しても、核実験は続けられる。インドは核実験を行ったが、何百も既に実験を行っている国との間の差が広がる。カットオフ条約も、核分裂性物質を既に大量に蓄積している国としていない国の間で差が生まれる。核兵器国の約束がない。これが問題の本質だ。我々がNPTに参加しなかったのは、NPTが即座に核兵器製造放棄を要求したからである。一方で核保有国に対しては、核廃絶の約束を要求しなかった。これは不平等条約だ。インド、パキスタンが核保有を公表するまで、核保有は安保理常任理事国の5カ国に限られていた。世界の安全保障に対する最大の脅威である5カ国によって担保されるという奇妙な状況があった。NPTは不平等を永続的に固定化する。そこで、代替策として、ラジフ・ガンジー首相が88年に提唱した道を探ろうではないか。対称性のある枠組みを作り、核兵器の廃絶を約束する。インドの提案は米国より日本の立場に近い。インドは平和目的の原子力利用を約束している。日本は最も野心的なインドの民生用原子力計画に参加できるようにしていかなければならない。475ギガワットは世界最大規模の計画だ。インドを理解せず参加を放棄するのか、理解し参加するのか、その決断を迫られている。
【サラン前インド気候変動問題担当特使】
日本はインドの原子力について馴染みがない。インド国民は、差別的、不平等な行為を寛容できない。インドはNPT交渉提唱国の一つ。核兵器国と非核兵器国間の義務は平等であるべきだ。オバマ米大統領の先見性に富んだ核軍縮宣言を歓迎する。核兵器の廃絶が我々の目標であった。CTBTは署名も批准もしていないが、自主的に核実験のモラトリアムを約束している。しかしテロリストに対する核抑止はどうなのか。現代は抑止のドクトリンがますます関連性を失っている。核兵器の普遍的廃絶によって始めて、無差別査察により極秘のうちに拡散を防止できる。日本にも理解いただき、参加していただきたい。近藤さんの言う、着実に実践的な対話の積み重ねは重要。インドとEU、米国はエネルギーパネルを始め原子力が議題に上がってきた。同様に日印エネルギーパネルを設けて、民間も参加し協力できる環境作りをしていく。日本の技術をインドの原子力計画に組み合わせ強いパートナーシップができる。
【十市勉日本エネルギー経済研究所専務理事】
日本とインドで議論を深めて政府間協力を強めていこうという提案。本会議がその方向に向けての第一歩になることを期待をしてパネルディスカッションを終わりたい。
【山田中正FEC日印文化経済委員長代行】
本日のフォーラムの結果を踏まえて、民間の立場からFECはインドの原子力計画への協力のあり方についての提言を行いたい。
(田丸 周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)