ホノハン・アイルランド中央銀行総裁を招き第106回FEC日欧経済等フォーラムを開催=FEC日欧文化経済委員会
2010年08月19日更新
ユーロ市場及びアイルランド経済の現状と今後の展望について講演
とき
平成22年(2010)8月19日(木)15時30分〜17時40分
ところ
アール・ビーエス証券会社東京支店会議室
概要
平成22年8月19日(木)にホノハン・アイルランド中央銀行総裁を招き第106回FEC日欧経済等フォーラムを開催
内容
民間外交推進協会(FEC)は8月19日、来日中のアイルランド中央銀行のパトリック・ホノハン総裁を招き、ロイヤルバンク・オブ・スコットランドplc及びアール・ビー・エス証券会社東京支店との共催により、第106回日欧経済等フォーラムをアール・ビー・エス証券会社東京支店で開催した。ホノハン・アイルランド中央銀行総裁は欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーであり、欧州財政危機やユーロ問題などに対する見解が注目された。フォーラムには、松尾邦彦国際石油開発帝石(株)相談役、田代圓東ソー(株)相談役、成川哲夫興和不動産(株)代表取締役社長、岡田修三東京海上日動火災保険(株)特別参与、浜中秀一郎住友商事(株)顧問・元駐ポルトガル大使、蜂谷哲也さくらクリニック院長、本間克巳(株)ジーアンドエイチ代表取締役らのFEC役員が出席した。
開会に際してFEC理事の山本健児アール・ビー・エス証券会社東京支店金融法人企画本部長より、「当社は一昨年白川日銀総裁をお招きしFECと日EUフォーラムを共催したが、今回は二度目のアレンジ。ホノハン・アイルランド中央銀行総裁は、政府、国際金融機関、学会での要職を歴任され、昨年9月から現職。本日は2時間のフォーラム。十分な意見交換を期待したい」と挨拶。続いて松尾邦彦国際石油開発帝石(株)相談役が、「アイルランドは日本との外交関係が長く、伝統的な親密国。対日貿易は黒字であり先進工業国として敬意を表する。欧州の財政危機とユーロ信認問題の解決には多難が予想され努力が必要。再発防止の規制過剰を危惧する。学識経験豊富なユーロ圏の世論指導者、ホノハン総裁をお迎えし嬉しい。非公式会合故忌憚のない見解を伺いたい」と主催者挨拶を行った。ホノハン・アイルランド中央銀行総裁は「ユーロ市場とアイルランド経済の現状と今後の展望」をテーマに講演を行い、ユーロ圏の抱える政策課題についても所見を述べた。講演後は出席者からの多くの質問・意見に対し、ホノハン総裁は率直に自説を述べ、時間を超過するほど熱を帯びたフォーラムとなり、終了近くには総裁から、「日本に来る迄色々質問を受けて来たが、今回が最も良いものであった」とのコメントも頂き、出席者から好評を博した。
今回の訪日は東アジア5カ国の最後。東アジアは、08、09年の世界経済の収縮から早期に回復し、回復の遅い欧米とは対照的。「25年間アジアは高成長、欧米は低成長」の通説に反論したい。急成長経済には、➀キャッチアップ目的の収斂型成長、➁銀行貸出、財政支出による持続不能な成長、➂小国など特化型経済、の3類型ある。当国は、2000年迄は収斂型成長(➀)を経験した。グローバル経済に備え、教育の拡充、有数のIT関連等の多国籍企業の誘致に成功した。海外流出した高学歴の若者が帰国し柔軟な労働市場に参入した。EUの協力的政策から行政も変化した。ボストンとベルリンの両方から利益を享受し、東アジアと並ぶ称賛を受けた。90年代後半の一人当たり実質GDPは2桁成長、高失業率(94年16%)は完全雇用(2000年4%)となり、非農業雇用比率も46%(07年)へ上昇し、「ケルトの虎」「欧州の奇跡」と呼ばれた。その後香港、シンガポール型の成長(➂)をめざしたが、賃金の持続的上昇は続かず、輸出も息切れ、不動産ブームの成長に代わっていった。帰国移民の住宅需要があり、政府も不動産税増収期待があった。ユーロの誕生は金利低下と需要拡大、海外借入増加を招き、建設ブームを後押しした。当国、アイスランドは結局、持続不能な成長(➁)となり、アジア通貨危機の教訓を学ぶことなく経済は悪化し、アジアと類似の危機に陥った。
ユーロ圏の当面の政策課題は、ユーロ危機に対する未然予防と迅速な事後回復策だ。ユーロ圏はユーロをベースに巧みな政策協調メカニズムがあるが、十分活用されていない。ユーロ、EUを拠り所に欧州の政策は自己満足に陥った。当国でも甘い銀行経営や市場心理が蔓延した。財政悪化に直面して初めて教訓を学び、財政赤字の削減に本格的に取り組んでいるが、市場は早期の成果は期待薄との反応だ。ユーロ圏各国は7500億ユーロの緊急融資枠の下で財政規律を順守し、赤字削減に取り組んでいる。当国では金融機関への公的資金の注入により財政赤字は拡大する見込み。輸出はアジア向けが増加し、資本流入も従来の米国に代わってアジアからの直接投資に移っていこう。
浜中秀一郎住友商事(株)顧問:貴国の金融危機は建設・不動産ブームに起因する伝統的なバブル崩壊と認識してよいか。
ホノハン総裁:証券化の行き過ぎも尚問題だが、ソブリン債務危機の再来だ。唯、ユーロ圏各国は日米ほど過剰債務ではない。
武居信男日蘭協会理事:ユーロ不安が発生すると強国が弱小国を支援する仕組みは、国民感情が出ると機能しなくなるのではないか。ユーロ、円レートについてどう見ているか。
ホノハン総裁:5月のギリシャ危機時の市場心理がそうだったが、ギリシャ支援は施しではなく、財政赤字削減公約が課せられている。ECB、IMFの監視もあり、進捗状況が確認される。中間報告によると順調な進捗だ。今後強力な財政規律メカニズムの導入を検討中だ。ECBは物価が安定していれば満足で、為替レートは殆ど心配していない。円高は日本企業の努力を強め、競争力強化の利点がある。
松尾邦彦国際石油開発帝石(株)相談役:5月の支援策決定時のドイツ国民の反発は強かった。財政政策の事前協議など協調性を強化するのは無理ではないか。このままユーロが迷走すると日本経済にも悪影響する。
ホノハン総裁:ドイツは流動的な政治情勢で決断に時間がかかった。蔵相レベルでは、各国予算の欧州委員会事前承認制や金融支援国に対する検査官の常駐などが検討中。日本は生活水準が高い国だ。
岡田修三東京海上日動火災保険(株)特別参与:参加国の拡大、ECBのIMFとの協調や国債購入など、発足時のユーロの理念が変質してしまった。アイルランド中銀総裁としてECBの政策は満足か。
ホノハン総裁:理想的ではないがIMFの関与は必要だった。ECBが弱体化したとは思わない。無制限の資金供給が可能であり、2%以内の物価安定目標は達成され、信認は強い。当国は99年迄自国通貨を保有していたが、通貨切り下げ毎に金利が上昇し、小国の経済情勢に合致した金利を見つけるのは困難だった。現在のECBの政策は当国に合っている。今後ユーロ加盟国の増加に対して、国の規模に応じた票決方法に変更される。
成川哲夫興和不動産(株)代表取締役社長:EUは幾多の障害、困難を克服してきており敬意を表したい。参加国の制限は、政治統合とも考えられるEUの最終目標に反するのではないか。
ジャン・ミニエ(株)アンティーム代表取締役会長:大恐慌時、世界的切り下げ競争が起こったが、今回も米国、欧州、中国は為替安だ。ECB資産の膨張も心配だ。
ホノハン総裁:ECBの国債購入による貨幣化を懸念されているが、ECBは量的緩和をしていない唯一の中銀だ。
田丸周FEC常任参与:日銀と学者間でインフレ目標政策について長年の論争がある。デフレ下でもインフレ目標政策は有効か。
ホノハン総裁:ゼロ金利以下では異なるが、成熟経済でも政策次第では中期的にプラス・インフレが可能。来年は日本も含め世界的にインフレとなろう。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)