伊藤信悟みずほ総合研究所(株)上席主任研究員を講師に招き第65回FEC中国問題研究会を開催=日中文化経済委員会
2010年04月21日更新
日本企業と台湾企業との連携による中国事業展開をテーマに講演
とき
平成22年(2010)4月21日(水)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
平成22年4月21日(水)に伊藤信悟みずほ総合研究所(株)上席主任研究員を講師に招き第65回FEC中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催
内容
民間外交推進協会(FEC)・日中文化経済委員会(委員長・生田正治(株)商船三井最高顧問)は4月21日、伊藤信悟みずほ総合研究所(株)上席主任研究員を招き、「日本企業と台湾企業との連携による中国事業展開」をテーマに第65回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。就任2年を迎えた台湾の馬英九政権は積極的な対中融和策を進めており、中台関係改善は日本企業の事業展開上も大いに注目される。研究会には、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問・元三井化学(株)会長、谷野作太郎日中文化経済委員会委員長代行・元駐中国大使、長瀬寧次日立化成工業(株)取締役会長、江藤修治電源開発(株)執行役員、川田隆司(株)ボルテックスセイグン常務取締役ら、多数のFEC役員、会員が出席した。
開会に際してFEC副会長の田中宏(株)クレハ取締役会長より、「伊藤講師は台湾研究の第1人者。当社も台湾企業と提携して中国へ進出した。中国人脈、国際ビジネスへの理解、日本語・英語に堪能で親日的な点が理由。操業は順調で本日の講演を今後の展開の参考にしたい」と主催者代表の挨拶があった。伊藤講師は最新の調査レポート(「チャイワン」は日本企業の脅威か?)と要約版の資料を出席者に配布し、中台接近の背景、中国における日台企業連携動向などを中心に、講演を行った。講演後、中華料理をともにして出席者と一問一答の懇談が和やかに行われた。
08年5月に馬政権が発足し中台間の経済協力が急速に進展、韓国メディアが「チャイワン」と呼び警鐘を鳴らした。日本企業にも脅威となるのか。馬政権は対中関係改善により台湾経済の活性化を図っている。政策の柱が、(1)対中経済関係の「正常化」(ヒト・モノ・カネの自由交流)、(2)「両岸経済協議(ECFA)」(中台経済連携協定に相当)の締結、(3)中台間の企業・産業協力推進だ。(1)については、中国人観光客の受け入れ拡大、中台間の直航拡充、対中投資規制の緩和が進んでいる。中国はASEANと包括的経済協力枠組み協定(ACFTA)を締結、ASEAN諸国と関税撤廃を推進中だ。台湾は輸出環境悪化懸念から、ECFAの6月末締結を急いでいる。当面は先行実施可能な分野の合意を目指す(「アーリーハーベスト」方式)が、11月の5大都市首長選や12年の総統選の行方にかかわる与野党間の重要争点となっている。ECFAの経済効果としては、対中輸出環境の改善、投資優遇措置の享受、紛争処理メカニズム整備などがある。馬政権は「架け橋プロジェクト」により、積極的に中台間の企業・産業協力を推進している。両国が有望業種を選定し、共同研究開発、製販分業、産業標準等の協力が進められている。台湾製品の調達を目的とした中国企業の訪台ミッションも目白押しだ。
中台間の企業・産業連携が強化された場合、台湾企業や中国企業との関係によって「チャイワン」から受ける影響は異なる。日本は台湾、韓国よりも対中輸出製品が分散し、また台湾と工程間分業関係にある企業が多く、台湾の成長の恩恵を最も享受しやすい。日本企業は台湾企業との連携を通じて「チャイワン」を商機にできる。日台合弁の中国現法の生存率は高く、「台湾活用型対中投資」のメリットは大きい。台湾企業は中国の「1割プレーヤー」とプレゼンスが大きく、台湾人幹部の中国人脈や情報収集源の多様化が期待される。研究開発拠点や中国・華人市場のテスト開拓の場として台湾を活用する企業も多い。今後の中国を睨んだ日台アライアインスの課題として、台湾の産業情報収集、日中産業連携戦略の構築があり、中台双方が重視するバイオ、医薬、環境・省エネ、IT等の分野への進出は日中台のトリプルウィンが可能となる。
田丸周FEC常任参与:台湾は中国と同じ25%の法人税率を20%以下に下げる予定。中国も追随するか。中台間の移転価格税制の問題は深刻か。
伊藤講師:中国の減税追随は考えにくい。移転価格税制の潜在リスクはあり、台湾協商は中台二重課税防止協定の要望を出している。
田中宏(株)クレハ取締役会長:12年の総統選で政権交代した場合、中台関係に影響は出るか。
伊藤講師:独立問題に対して台湾世論の半分以上が現状維持に賛成だ。中国側の台湾研究も進んでおり、中台共に経済関係の後退は望んでいない。
谷野作太郎元駐中国大使:ECFAも農産物はセンシティブ。南部の農家の反対は強い。台湾企業との連携の成功例はあるか。
伊藤講師:馬政権の「農産物輸入は非開放」方針を中国は了解している。連携の代表的事例としては、伊藤忠が台湾資本と食品・飲料、外食産業、コンビニ・物流など多面的に中国で事業展開している。
田丸周FEC常任参与:中国が認める台湾加盟の国際機関はあるのか。
伊藤講師:APECは正式メンバー。オブザーバーでWHO総会に参加した。
田丸周FEC常任参与:日本が外交上強みを発揮するのは、麻生外相が提唱した東西コーカサス地域の「繁栄の弧」ではなく、アジア太平洋地域の「南北の弧」であり、横浜APEC総会は台湾を前面に出す好機とならないか。
谷野作太郎元駐中国大使:米国は承諾しようが中国は反対しよう。
渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:台湾の第2世代は親と同じ親日感をもつか。商社の中国投資は単独よりも台湾勢と組んだ方がよい。
伊藤講師:財界2世の親日性は高い。商社のマッチング事例多い。日台合弁でのITの中国進出形態は、完成品は少なく、部品が多い。
田中宏(株)クレハ取締役会長:ECFA締結に向けて馬政権は南部住民をどう説得するのか。
伊藤講師:中国側が馬政権に呼応し、台湾南部に多い農民や中小企業の利益を重視すると明言中。
渡邊五郎森ビル(株)特別顧問:中台連携は、韓国と日本、どちらに脅威となるのか。
伊藤講師:ブランド力のある日本企業とOEM製造委託先の台湾の協力関係は韓台間より強い。馬政権は統一・独立問題に触れることを避け、ECFA等で経済果実だけ享受したいというのが本音だが、中国がどこまで乗れるか。
谷野作太郎元駐中国大使:中国は2012年に第5世代へ首脳が交代する。2期務めるとすると10年間習近平か李克強の下で何が起きるか予想がつかない。2つの本が参考になろう。呉軍華(日本総研)は「中国静かなる革命」で、多党制の到来を予想し、ジェームズ・マンは「チャイナ・シンドローム」で、変化しないとの見方だ。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)