関志雄(株)野村資本市場研究所シニアフェローを招き第72回FEC中国問題研究会を開催=FEC中国問題研究会
2010年07月06日更新
中国経済の現状と展望-チャイナ・アズ・ナンバーワンへの道をテーマに講演
とき
平成22年(2010)7月6日(火)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
平成22年7月6日(火)に関志雄(株)野村資本市場研究所シニアフェローを招き第72回FEC中国問題研究会を開催
内容
民間外交推進協会(FEC)・日中文化経済委員会(委員長・生田正治(株)商船三井最高顧問)は7月6日、関志雄(株)野村資本市場研究所シニアフェローを招き、「中国経済の現状と展望-チャイナ・アズ・ナンバーワンへの道」をテーマに第72回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、田代圓東ソー(株)取締役相談役、三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問、尾崎護矢崎総業(株)顧問、谷野作太郎元駐中国大使、内田勲横河電機(株)取締役会長、後藤舜吉チッソ(株)代表取締役会長、神山茂(株)ジャステック取締役会長ら、多数のFEC役員、会員が出席した。開会に際してFEC副会長の生田正治(株)商船三井最高顧問より、「関講師は著名な中国ウォッチャーで多くの政府審議会委員を歴任され、好著も多い。チャイナ・アズ・ナンバーワンは確実視されており、講師の見解に期待したい」と、主催者代表の挨拶があった。関講師は配付資料にもとづき、中国の発展過程、格差是正策、米中逆転の展望などマクロの観点から、中国経済の中長期展望の講演を行った。講演後、土地制度、司法、税制等をめぐり出席者と一問一答の懇談が活発に行われた。
中国は昨年建国60周年を迎えた。経済は前半30年停滞したが、段階的に社会主義を放棄した後半30年の実質GDPは16.4倍へ飛躍的に増加した。95年以降の所有権改革で国有企業の民営化が進み、工業生産の民間・外資比率が7割へ上昇した。独占企業で黒字の、大型国有企業の民営化は遅れている。4兆元の景気対策も追い風だ。農業国中国は産業革命を経ることなく社会主義化したため当初は経済成長に失敗した。共産党規約は百年以上続くが、工業化には資本主義が必要との認識(87年党大会)あり、現状は資本主義の初期段階とみるのが国民の本音。課題は、鄧小平の「先富論」の見直しと公平性重視で、胡錦濤は調和社会の達成を目指す。地域格差と所得格差が拡大する中で民間消費も低迷した。格差是正には、国内市場の統一化、後発地域への直投、地方交付税制度の強化を提言している。
過去20年間、中国は農民工の生産性上昇による「雇用なき成長」で発展した。今後、高齢化の進行や農村の過剰労働力解消から労働力不足時代を迎える。自主開発能力と生産性の向上が必要だが、後発メリットから、企業は海外技術の輸入を志向しがちだ。過去10年間で重工業比率は10%上昇した。今後も繊維・家電から鉄鋼・自動車へ産業が高度化する余地がある。中国の輸出は既に世界一。GDPは今後年2%元高で26年に米国を抜くと試算される。人民元安は、「安くしなければ売れない製品競争力」と理解すべき。70年代以降の日本は競争力がつき、円高でも売れた。経済発展指標比較で日中は40年の差がある。未だ交渉は始まっていないが、日中FTA締結で、自動車関税(25%)が撤廃されれば、自動車の日本国内生産・中国輸出も予想され、日本の空洞化対策になる。
生田正治(株)商船三井最高顧問:中国が完全雇用に近づくと、労働集約型製品の供給国はどこになるのか。また、内需強化、格差是正の課題があり、労働争議の解決策は賃上げしかないか。
関志雄講師:ベトナム、バングラデッシュ、インド等か。低賃金のほか外資受入体制、労働慣行も重要な条件だ。インドでは解雇が難題。中国の労使交渉は党相手ゆえ、社会主義的になる。
田代圓東ソー(株)取締役相談役:中国の一人っ子政策は日本の少子化と同じ現象を生んだのか。
関志雄講師:日本の20年前と似ている。80年代以降の子供は甘やかされて育ち、労働の質の低下が懸念されている。パラサイト現象も見られ、大卒者は真剣に就職活動しない。
後藤舜吉チッソ(株)代表取締役会長:知的財産権の保護意識が不十分だ。
関志雄講師:まだ整備段階で、厳しく法律を運用すると生産性低下も懸念され、短期間の改善は無理と思う。法治国への道も課題だ。
田丸周FEC常任参与:六法全書の分量がほぼ同じように、中国の法律は日本の水準まで整備されているが、「法律の役割は社会管理手段」ゆえ、法の執行は厳格でない。また党決定が法律に優先する。
尾崎護矢崎総業(株)顧問:地方政府が開発した土地を売却すれば税収増になり投資資金となるが、過剰投資の問題はないか。税制の機能はどうか。
関志雄講師:インフラ整備が進む反面、失地農民が発生し公平性に問題が生じる。民主化が進むと建設期間が長期化し効率は落ちる。完全国有企業では過剰投資の懸念はなく、半国有企業が鉄鋼等へ新規参入目的の投資を行い過剰となる。土地使用権は住宅が70年、農村部が30年。税制は未整備。地方が強く、米国型に近い。所得税は富裕層の捕捉は弱く、相続税、固定資産税も未導入。
内田勲横河電機(株)取締役会長:中国の自主開発も進んでおり今後の成長性は理解できる。軍事覇権主義の目指す目標はどこか。国としてまとめていけるのか。
関志雄講師:軍備による国家管理は失敗しよう。インド洋向けとの観測がある空母建設に疑問の国民は多い。民主化により国家は安定する。
谷野作太郎元駐中国大使:「5つの調和」の次に「国際社会との調和」が必要だ。アフリカ進出の実態はひどい。アセアンと如何に分業するか。外相会談でも大国の品格が求められる。
関志雄講師:中華思想とは自分の弱さを反映したもの。アヘン戦争以来、戦争に連敗続きゆえ、主権にもこだわる。風格はなかなかでにくい。
前田貴俊FEC企画事業部次長:人民元の国際通貨化の可能性はあるか。
関志雄講師:貿易決済の兌換性は進んでいるが、金融市場の健全化が先決で、資本取引の規制緩和には時間がかかる。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)