清水美和東京新聞論説副主幹を招き第61回FEC中国問題研究会を開催=FEC日中文化経済委員会
2010年01月26日更新
習近平副主席の来日と今後の日中関係をテーマに講演
とき
平成22年(2010)1月26日(火)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
清水美和東京新聞論説副主幹を講師に招き、第61回中国問題研究会を開催した。
内容
民間外交推進協会(FEC)・日中文化経済委員会(委員長生田正治(株)商船三井相談役)は1月26日、清水義和東京新聞論説副主幹を招き、「習近平副主席の来日と今後の日中関係」をテーマに第62回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、生田正治(株)商船三井相談役、野村吉三郎全日本空輸(株)最高顧問、三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問、尾崎護矢崎総業(株)顧問・元大蔵事務次官、渡邊五郎森ビル(株)特別顧問、伊藤直彦日本貨物鉄道(株)代表取締役会長、中嶋洋平日油(株)代表取締役会長、武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長ら、多数のFEC役員・会員が出席した。
開会に際してFEC日中文化経済委員会委員長の生田正治(株)商船三井相談役より、「中国は高成長を続け、来年のGDPは日本を抜く勢いだ。軍事、資源外交、国連外交面でも戦略的だ。巨大バブルと不良債権も心配だ。習近平副主席の来日では天皇の政治利用が問題視されたが、天皇との親密な会見は良かった。中国ジャーナリスト第1人者の清水副主幹からこの背景も含め、中国の最新情勢につき伺いたい」と主催者代表の挨拶があった。続いて、清水講師より中国の政治経済情勢、対外政策等について、レジュメに基づき詳しい説明と率直な見解が述べられ、講演後中華料理をともにして出席者と一問一答の懇談が和やかに行われた。
昨年12月の習近平国家副主席の来日は、民主党政権が強引に天皇陛下との会見を実現させ反発を招き、習のイメージも傷ついた。天皇会見は1カ月前に要請するという宮内庁ルールを守らなかった中国側の事務的不手際が原因。政治局常務委員の序列6位の習副主席の外遊日程は、外交部より権限が強い党中央弁公庁が管理。当時、金融危機からの出口戦略をめぐる党・政府内部の対立によって、習副主席の外遊日程の決定も遅れた。日程が定まったのは訪日1カ月前を切り、3日間滞在の、あわただしい訪問に。中国外交部は胡錦濤副主席時代と同じく天皇会見を要求した。日本外務省が当初、1カ月ルールと陛下の体調を理由に、会見を断った。習副主席の待遇が胡副主席より下になれば、自らの責任が問われかねない中国外交部は、猛烈な巻き返し。首相官邸が天皇会見を決めたのは、民主党の小沢訪中団の胡主席会見日と同じ12月10日。天皇会見は異例の形で実現し、胡主席会見の見返りという疑惑を招いた。天皇の政治利用は中国でもあった。銭元副首相は回想録で、92年の天皇の初訪中が「西側の対中制裁を打破する積極的な作用を果たした」と書いた。
民主党政権が強引に天皇特例会見を実現し、鳩山首相が「次世代のリーダー」と習を持ち上げたが、次期総書記レースの最終的な決着はついていない。2年後の次期党大会では、現在9人の政治局常務委員のうち、胡錦濤総書記、温家宝首相など7人が引退の予定で、早くも人事を巡る抗争が表面化してきた。中国建国60周年パレードでは毛沢東(革命第1世代)、鄧小平(第2世代)、江沢民(第3世代)の肖像画が登場、各世代指導部の「核心」と紹介された。胡錦濤の肖像画は「総書記」とのみ呼ばれた。胡が総書記就任7年を経ても現指導部の「核心」は江であることを示唆した。江の露出をはじめ、次期党大会への動きが公然化した背景に、前回党大会で胡錦濤が意中の後継者である共青団派の李克強を次期総書記の座に据えられなかった胡体制の脆弱さがある。江沢民(上海)派や党長老の後押しで、習近平が李克強より上位の政治局常務委員となり、次期最高指導者の最有力候補に。習の妻、彭麗媛は軍出身の美人歌手。習近平訪日に先立ち皇太子と非公式に会見し天皇会見への道を掃き清めた。胡の次次期指導者候補は、共に46才の胡春華内モンゴル自治区党書記と、ライバルの孫正才吉林省党書記。次期党大会で同時に政治局員入りか。
胡政権の権威低下の背景には、07年党17回大会で生じた権力の「ねじれ」と、格差是正と調和的発展を目指す「和諧(調和)社会」路線が金融危機の影響で、棚上げされたことがある。4兆元(約53兆円)の公共投資拡大と銀行融資の緩和により、09年のGDP成長率は8.7%と、V字回復を達成したが、株・不動産バブルが拡大した。融資先の8割が国有企業で、多くは株と不動産に流れ込んだため、不動産投機規制や預金準備率引き上げが導入された。都市と農村の所得格差は広がり社会矛盾が顕在化する中、メディア統制も強化された。9千のインターネット・サイトが閉鎖され、米グーグル問題が勃発した。
対日政策では、胡錦濤は「戦略的互恵関係」の維持とギョーザ事件の追及断念を求め、前者は受け入れられたが、後者は拒否された。鳩山政権の対米自立傾向や東シナ海ガス田、チベット・人権問題に対する姿勢には警戒感。米中関係も金融危機、地球温暖化問題では協調を図るが、安全保障では相互に不信感は強い。グーグル問題が外交争点に。ロシアも中国の台頭、中央アジア進出を強く警戒。中国に対し世界の警戒感は増大。COP15における強硬発言など、中国をマネージできるかが米国、EUの共通課題だが日本の意識は低い。日本は日米同盟を基軸に、中国の台頭に警戒を強める周辺諸国とも連携を深める必要。中国に対する省エネ・環境問題を軸にした経済協力(知的財産権保護に注意)など関係強化で中国国内の対外強硬論を牽制しながら、胡政権の「和諧世界、社会」路線と対日重視を引き出す戦略的外交が問われる。
生田正治(株)商船三井相談役:日本では世襲議員が問題視されるが、中国で「太子党」支配を容認する背景は何か。
清水講師:中国は暴力革命で政権を奪取した。高級幹部は教育水準も高く、「自分の利益は一族の利益」と考えた。毛時代の2世は国有企業への就職が中心で、政界進出は改革開放により活発化した。優秀だがわがままで、指導者になった時の親近感が注目される。国有企業トップの8割が太子党で、「李鵬の電力」等、主要業種を握っている。
伊藤直彦日本貨物鉄道(株)代表取締役会長:小沢訪中団の胡主席との個別記念写真、習来日時のお辞儀の背景は何か。
清水講師:小沢氏は自民党時代から「頂上計画」の訪中時に同様の写真を撮っている。今回も特別な厚遇か。中国ではトップとの写真はビジネス促進やリスク回避の手段として重用される。お辞儀は中国内で批判されるので、習近平はカメラの前ではお辞儀をせず、会見室に入り深く一礼した。
織田幾太郎(株)JTBベネフィット代表取締役社長:日本は習近平とどう応対すべきか。
清水講師:次期リーダーに間違いないと思うが、現段階で報道すると国内で反発を招く。外務省も自然体だ。民主党の中国に恩を売る対応は、日本の官僚の反発を招き失敗だった。小沢幹事長はかつて江沢民批判をしたが、靖国参拝で対立した時小泉政権を批判し親中となった。中国はニクソンや小沢氏のような、戦略家で実力者を好む。
田丸周FEC常任参与:業種毎の政治家・企業の相関図はあるのか。
清水講師:香港で出版された太子党支配の業界一覧書によると、胡主席は先端技術企業に閨閥を張っており、娘は最大手IT企業の前総経理夫人、息子は空港の安全検査機会社総経理。曾慶紅一族は資源、素材企業に多い。
尾崎護矢崎総業(株)顧問:グーグル問題の行方をどう見るか。
清水講師:単純ではない。04年から共産党のメディア規制が厳しくなり、今は384百万人がアクセスし世論形成に利用されるインターネット対策が最大の標的。米中のサイバー戦争は軍事技術競争ともいえ、激しい争点になっている。中国もIT技術は必要であり、撤退を検討中のグーグル側が譲歩すれば事業継続もありうる。
生田正治(株)商船三井相談役:バブル崩壊についての見方はどうか。
清水講師:過去何度も同様な警告があったが乗り切ってきた。中国当局もリスクを意識し対処している。
尾崎護矢崎総業(株)顧問:素材産業等の生産過剰企業への融資が問題だ。
三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問:ギョーザ事件の真相は不明なのか。
清水講師:不明だ。今後、犯人を逮捕したとしても、メラミン事件の補償問題等が蒸し返される。食の安全に関する日中協議会設立で幕引きしたいとの意向だ。
中嶋洋平日油(株)代表取締役会長:民主党と中国の考える安全保障リスクに違和感はないようだが、米中軍事同盟の可能性はないか。
清水講師:党独裁維持が中国の至上命題で、台湾統一には強力な指導力が必要。米国も台湾併合やチベット統制強化を狙う中国との同盟は考えられない。
水沼正剛電源開発(株) 取締役:中国は環境問題で追い詰められている。COP体制に入ってくる可能性はあるか。
清水講師:中国の温暖化問題への意識は高く積極姿勢だが、先進国と同列では反発する。米中、独中間の協力も始めた。日本は国家戦略なく残念だ。
木村丈剛旭海運(株)取締役社長:農業問題への取組みは進んでいるのか。
清水講師:一貫して「三農問題」は重要で、農村振興と農民所得の増大に努めている。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)