石平拓殖大学客員教授を招き第59回FEC中国問題研究会を開催=FEC日中文化経済委員会
2009年12月01日更新
低成長には耐えられない中国。先行き何が起こっても不思議でない国だ
とき
平成21年(2009)12月1日(火)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
石平拓殖大学客員教授をお招きし、第59回中国問題研究会を開催した。
内容
民間外交推進協会(FEC)の日中文化経済委員会(委員長生田正治(株)商船三井相談役)は
12月1日、石平拓殖大学客員教授を招き、「中国の経済情勢と今後の行方・日中間の文化的相違」をテーマに第59回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、稲森俊介味の素(株)特別顧問、谷野作太郎元駐中国大使、中嶋洋平日油(株)代表取締役会長、尾崎護矢崎総業(株)顧問、武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長ら、多数のFEC役員・会員のほか、台北駐日経済文化代表処からも1名が出席した。
開会に際して生田正治日中文化経済委員長より、「本日は時宜を得た講師。G8各国がマイナス成長見通しの中、中国は今年、来年と高い成長が持続する見込み。経済・軍事大国の道を着実に進む中国は、70年代の日本のように、「チャイナ・アズNO1」の感もある。成長持続は本物か。不良債権、格差問題、社会不安、少子化等問題もある。石講師より中国の現状と課題・リスクについての見解を伺い、出席者との意見交換を行いたい」と主催者代表の挨拶があった。続いて、石講師よりレジメ資料に基づき、中国の高度成長メカニズム、バブル化の危険性、日中関係等について、率直な見解が述べられ、講演後中華料理をともにして出席者と一問一答の懇談が活発に行われた。
11月のオバマ米大統領訪中のポイントは、中国の対米輸出確保にあった。胡錦濤国家主席は人民元切り上げ要求に応じず、米国の保護貿易主義を批判した。中国経済の高度成長は、輸出と固定投資の「2台の馬車」が牽引してきた。年10%台の成長率に対して輸出は年25%増加し、貿易依存度は37%へ上昇した。アパレル等低付加価値製品を安く作り安く輸出する戦略だ。低賃金と人民元安維持政策により経済は慢性的内需不足となる。個人消費のGDP比率は37%(米国70%、日本60%台)と低い。社会保障の未整備も消費抑制要因。医療費は高額であるが国民の65%が医療保険未加入で、「手術すると破産する」と言われる。貧富格差も大きく、輸出主導型の高成長を一層追求する悪循環になる。
国有銀行等の融資により今年の固定投資は35%増の見込み。既に06年に「産能過剰(生産能力過剰)」と問題視された。年70百万台の携帯電話の需要に対し生産能力は5億台と大きな格差がある。07年から引き締め政策へ転換されたが、リーマン危機で情勢は一変した。金融への打撃は少なかったが、輸出は22%下落し、中小企業の4割が倒産した。「2台の馬車」は失速し、政府は道路、鉄道等インフラ部門へ4兆元(57兆円)の財政支出と金融緩和策を発動した結果、09年第1四半期は6%成長へ回復し、年間8%成長を確保できる見通しだ。09年上期の銀行融資はGDP比5割以上、前年同期比3倍の7.4兆元と巨額で、年間計画の5兆元を大きく超過する放漫融資だった。銀行融資は国有企業向けが中心で中小企業向けは少ない。使途は2割が株、3割が不動産投資に向かった。年初来8ヶ月の銀行の不動産融資は46%増と、資産バブルが再燃している。自動車も産能過剰で、セメントは3億トン余剰状態に新規投資で2億トンの能力が増加した。「外需下落・内需不足・産能過剰」という構造的矛盾が未解決だ。第3四半期の8.9%成長は、インフラ投資拡大と放漫融資の結果で、実体経済の自律回復にはつながっていない。来年は今年と同様の景気刺激策は採れず、成長率は低下しよう。
失業問題は深刻で、2億人の農民工の労働力吸収のために、「保8(8%成長死守)」が国家目標となっている。失業統計は信用できず、失業率の実態は10%前後だ。07年に13%成長した時でさえ大卒の3割が就労できなかった。格差拡大と失業増加から国民の不満が高まり暴動も多発している。唯一の命綱が経済成長と成長神話で、共産党の政治支持基盤が、経済繁栄と愛国主義だ。不安はファシズム的政策への誘惑と、毛沢東時代への憧憬だ。庶民は「改革解放」から疎外され格差が広がった。毛時代は皆が貧困であり、怒りは少なかった。温首相が毎年正月に農村慰問を続けている背景だ。
中国は、バブル崩壊もせず経済が破綻しなくても、低成長には耐えられない。先行き何が起こっても不思議でない国だ。
尾崎護矢崎総業(株)顧問:好調な自動車販売の見通しは。インフラ投資は日本のような土地収用問題がなく即効性がある。都市の地下鉄整備等良い投資もある。
石平講師:自動車販売は補助金効果が大きく、来年は一巡しよう。インフラ投資は継続せず非効率だ。
田丸周油研工業(株)常勤監査役:来年の内需拡大策の中身はどうなるのか。
石平講師:中産階級の所得増加策や社会保障の拡充が必要だが、即効性に欠け発動困難か。
生田正治(株)商船三井相談役:社会インフラ投資をうまくやれば賃金上昇の効果があろう。
石平講師:インフラへの過剰投資は消費増加にならない。需要構造を是正すべきだが、金融危機で頓挫してしまった。
武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長:農村には潜在的消費需要があり、家電購入の補助金は効果があったのではないか。
石平講師:一過性の効果はあった。農産物は豊富だが輸出できず、価格を上げると都市の貧者から不平が出る。農民の賃金は抑制され、土地も安値で買われ不動産ブームが起きた。農民の犠牲で中国は繁栄してきた。
生田正治(株)商船三井相談役:今後都市人口が農村人口を逆転した場合、経済面への影響はどうか。
石平講師:都市化の進行により、不動産、自動車が成長の牽引力となる見方もあるが、農民の余剰労働力の受け皿となる産業があるのか。都市部で失業した農民工は、帰郷しても耕す畑がない場合が多い。北京、上海の土地価格は東京並みに上昇した。北京中心部で3万元/㎥と市民の年収に等しい。不動産業が成長の柱でつぶせない。中産階級は育っておらず、内需拡大をどこからやるかジレンマがある。
稲森俊介味の素(株)特別顧問:日本の辿った道のようだ。
石平講師:中国の場合、産業が育つ前に不動産バブルを生んだ。中国人は「一獲千金」好きだ。
生田正治(株)商船三井相談役:「無神論国家」中国と「神仏の国」日本との相違を伺いたい。
石平講師:中国人の信仰心は強くない。無神が賢いと言われ知識人・エリートは無神論者が多い。道教は世俗的で、拝金、不老不死の教え。毛沢東は伝統的道徳、倫理すべてを破壊し、共産主義で宗教は壊された。当時、子供が反動的な親を密告し、死刑となる事例も多発した。鄧小平の資本主義は拝金主義を更に増長させた。
谷野作太郎元駐中国大使:石講師の言う「中国の将来を断定的に言う人は偽者」に同感だ。将来、第5世代が指導者になる頃の共産党はどうなっているか、多党制の見方はどうか。軍が手をつけられなくなってきたが、党指導部と軍の関係についての見解を伺いたい。
石平講師:2012年の胡主席退任時、後継者問題で政治的動乱の可能性がある。従来は鄧小平の指名により国家主席が順調に決まっていたが、今後は国民の支持で決まる。後継候補者間で人気取りの闘争が始まり、この新しい流れが中国民主化の芽生えとなるかもしれない。憲法上の規定はないが軍は党総書記が統率している。自衛隊が自民党に所属するような状態。本来は国家に所属すべきだが、党は権力を手放さない。軍はビジネスも可能で腐敗も多い。市場経済化も党の権力強化手段だ。
谷野作太郎元駐中国大使:党幹部は自民党の敗北理由(派閥と国民の気持ちを吸収できなかった)を教訓としているようだが、党の自浄能力をどう見ているか。
石平講師:彼らが平気で言う事に、(1)地方のポストはカネで買える。公安、国有財産局が最高で教育、文化ポストは安い(2)愛人の話(3)江沢民の下ネタ、がある。自浄能力は疑問だ。
中嶋洋平日油(株)代表取締役会長:経済成長が止まったら、愛国心が強調され、軍が全面に出る懸念はないか。日本への軍事的脅威はどうか。
石平講師:社会不安や暴動の発生に対し、党総書記は国民の目を台湾に向けさせるかもしれない。中台統一で共産党は30年延命可能だ。台湾を統一できれば、日本は中国の言いなりになると見ているのではないか。
田丸周油研工業(株)常勤監査役:日本企業の中国との付き合い方への助言を伺いたい。
石平講師:中国の不確実性を前提とすると、企業は「社運を賭けて中国進出」といった深入りはせず、程々にすべき。中国市場が伸びなくなった時、中国エリートが爽快となる「日本企業叩き」発生の懸念がある。秀吉や戦前の日本は火傷を負った。日露戦争時の日本は賢かった。大陸は特に留意すべき。日本は海洋国家として生きるべきだ。麻生首相の「繁栄の弧」は賢明な外交戦略だった。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)