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姫田小夏フリージャーナリストを講師に招き第67回FEC中国問題研究会を開催=FEC日中文化経済委員会

中国 日中文化経済委員会

2010年05月20日更新

上海不動産バブルの最新レポートをテーマに講演

インターネット上の投稿詩の説明をする姫田小夏講師

インターネット上の投稿詩の説明をする姫田小夏講師

第67回FEC中国問題研究会の開催風景

第67回FEC中国問題研究会の開催風景

とき

平成22年(2010)5月20日(木)12時〜14時

ところ

帝国ホテル東京「北京」

概要

平成22年5月20日(木)に姫田小夏フリージャーナリストを講師に招き第67回FEC中国問題研究会を開催

内容

民間外交推進協会(FEC)・日中文化経済委員会(委員長生田正治(株)商船三井最高顧問)は5月20日、フリージャーナリストの姫田小夏氏を招き、「中国バブルの象徴、上海の現状」をテーマに第67回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。高騰を続ける上海の不動産価格に対して、中国政府は新たな過熱抑制策の検討を始めており、今後の不動産バブルの行方が注目される。研究会には、田代圓東ソー(株)取締役相談役、谷野作太郎FEC日中文化経済委員会委員長代行・元駐中国大使、安崎暁(株)小松製作所特別顧問、神山茂(株)ジャステック取締役会長、武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長らFEC役員、法人会員多数が出席した。

開会に際してFEC副会長の三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問より、「高度成長続く中国は万博でスポットライトを浴びているが、不動産バブルや格差問題等影の部分も多い。上海の実情に詳しい姫田講師より上海の最新事情と今後の展望を伺いたい」と主催者挨拶があった。姫田講師は詳細な講演資料に基づき、不動産市場動向、政府規制の動き、市民生活の実態等についての講演があり、講演後出席者と一問一答の昼食懇談会が和やかに行われた。出席者からは、不動産バブルの変遷と今後の見通しについて、メディア報道では得られない実態が理解でき、時宜を得た講演会と好評を博した。

講演要旨

過去10年熱い上海を観察してきた。不動産価格は3月時点でも高騰を記録。中国政府は4月に新たな規制(「国十条」)を導入し不動産市場の過熱抑制を図っている。「政府が土地使用権を売り市民を養っているのでバブルは弾けない。しかし価格は高騰し手が届かない。最後は田舎に帰り静かに暮らすしかない」(インターネット上の投稿詩)が市民の実感と思う。上海市政府の腐敗も暗示した不動産取得と人間模様を描いたドラマ「蝸居(狭苦しい家の喩え)」が昨年ヒットした。不動産価格の上昇とマクロ規制は毎年繰り返されてきたが、上海の不動産販売単価は過去9年間で5倍上昇した。09年の上昇は、銀行融資の拡大と景気対策として出動された財政資金が不動産投資に回ったのが背景だ。勤労者年収比20倍の水準へ上昇し社会問題化している。「国十条」は過去最も厳しい投機的不動産投資規制。固定資産税導入の観測もあるが、新政策発表後の4月の住宅価格も上昇が続いている。ネットによる「国十条」の住宅価格への影響調査では、78%が「影響なし」の回答だ。

政府は、失業増大懸念から不動産価格の下落を容認できない。価格が下落すると不良債権も問題となる。今後の見通しは、小出しの規制が繰り返され、価格は高止まりするのではないか。低価格住宅の建設計画や賃貸市場の研究も進んでいる。地方政府は財政収入期待から温州マネーの地方都市流入を歓迎しており、地方不動産の値上がりも予想される。また銀行融資が抑制されれば、中国企業の資金繰り悪化から日系企業の債権回収面に影響が出よう。不動産保有は非課税で、気楽に贈与されている。固定資産税の導入は画期的であるが、課税範囲の確定や徴税方法等の課題がある。

懇談・質疑応答

田丸周FEC常任参与:「国十条」についての専門家の評価はどうか。公営住宅の供給はないのか。

姫田小夏講師:「国十条」の細目は地方政府が今後決定する。5/13に固定資産税導入の観測が流れ様々な議論が展開中。中国の低所得者向け住宅制度は98年からあるが、上海市の取組みは始まったばかりで入居は実現していない。市民は賃貸住宅では「恥ずかしい」と思い、借家法も完備されず、安心して住めない。

武田邦靖AOCホールディングス(株)取締役会長:日本の高度成長時代、必要な住宅は社宅で手当てされた。上海の持ち家比率状況は。

姫田小夏講師:90年代からの政府払い下げにより市民の持ち家比率は高い。現在は等価交換で古い住居の買換えが進んでいる。地方出身者の住宅難が問題。

三好孝彦(株)日本製紙グループ本社特別顧問:昔からの上海市民には住宅問題はないのではないか。

姫田小夏講師:不動産を持てない若者は結婚できない。温州人の投資は大規模で開発業者が価格を吊り上げ、一般の人を遠ざけている。富裕者が権力を握る格差の拡大が問題。

谷野作太郎元駐中国大使:万博への住民の評価はどうか。

姫田小夏講師:物干し規制や道路封鎖の制約、薄い経済効果から市民の万博熱は冷めてしまった。

法亢堯次フジサンケイ・コミュニケーションズインターナショナル代表取締役会長:万博関連の消費喚起策の効果はあったのか。

姫田小夏講師:TVで見るだけで終わりにならないように、チケットや交通カードが支給された。

安崎暁(株)小松製作所特別顧問:昨秋シノペックス首脳は、「既に不動産の売り逃げが始まっており、間抜けな外国人と知恵不足の中国人がババをつかむ。地方政府は帰郷した民工向けに賃貸住宅を建設している」と言っていた。

谷野作太郎元駐中国大使:上海市民の職場の話題はどのようなものか。

姫田小夏講師:ネットの書籍ランキングで「生き方」(稲森和夫著)の中国語訳が首位となった。書店でも成功論から幸福論や哲学コーナーに人気が移っている。

丹羽正幸(医)丹羽クリニック理事長:上海市民の日本人等外国人に対する本音はどうか。文革への意識はあるか。

姫田小夏講師:日本報道が消え、日本への関心がなくなっている。現地の日本人は決裁権限も少なく「定食文化」をはみ出ていないとの見方。反日ムードはないが戦争ドラマは多い。韓国人は現地化が進んでおり高い人気。毛時代への憧憬をもつ人もいるが、文革は若者のファッションで意識される程度。バブル化でグルメの快楽が大きな変化だ。

田丸周FEC常任参与:民主化への希望は強いか。

姫田小夏講師:金銭的自由と行動の自由が得られ、市民の民主化への湧き上がる力はない。近所の騒音問題も住民運動にはならず、規制、法律には諦めに近い。

(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)

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