清谷信一軍事ジャーナリストを講師に招き第64回FEC中国問題研究会を開催=FEC日中文化経済委員会
2010年04月06日更新
中国の空母建造と日本への影響をテーマに講演
とき
平成22年(2010)4月6日(火)12時〜14時
ところ
帝国ホテル東京「北京」
概要
平成22年4月6日(火)に清谷信一軍事ジャーナリストを講師に招き第64回FEC中国問題研究会を開催
内容
民間外交推進協会(FEC)・日中文化経済委員会(委員長・生田正治(株)商船三井最高顧問)は4月6日、清谷信一軍事ジャーナリストを招き、「中国の空母建造と日本への影響」をテーマに第64回中国問題研究会を帝国ホテル東京で開催した。研究会には、荒木浩東京電力(株)顧問、谷野作太郎日中文化経済委員会委員長代行・元駐中国大使、遠藤良治信越化学工業(株)顧問、今田潔信越化学工業(株)顧問らFEC役員、法人会員ら多数が出席した。
開会に際して日中文化経済委員会委員長の生田正治(株)商船三井最高顧問より、「中国の経済規模は20年代央には米国に近づく。軍事力は経済力に比例するのが歴史の事実。外交の要諦でもある。台湾問題は自然に消えていくと思う。清谷講師は海外メディアにも参画された多彩な経歴の軍事問題の専門家。複眼的視点からの見解を伺いたい」と主催者挨拶があった。続いて、清谷講師より講演要旨資料に基づき、中国空母建造の実力と意図、日本への影響等についてのオフレコを交えた講演があり、講演後出席者と一問一答の昼食懇談会が行われた。清谷講師からは、防衛専門誌と著作も配付され、出席者からは、中国の軍事力膨張の影響や日本の防衛問題の実態等が理解でき、時宜を得た講演会と好評を博した。
日本の防衛問題について、保守論壇は形而上学的議論が多く、左派の方が事実に基づいた議論をする。航空母艦はステイタス・シンボルで政治的兵器だ。空母と核兵器保有が大国の証とされ、北朝鮮が好例。しかし北朝鮮は核兵器を作ったが空母は作れなかった。96年の台湾総統選挙時、軍事的緊張が高まり、中国は空母を切望した。最近武漢に「陸上航空母艦」を建造中で注目される。専門家はこの「陸上空母」を、レーダーや艦載戦闘機の配置等を測定試行する実物大の模型とみている。中国の空母保有計画は、2隻の4万トン空母を長江造船所で建造、10年以内に完成、運用開始する計画だが、茨の道だ。ロシア兵器を多く保有するインドがロシアに対して「中国へ売るな」と言っており、ノウハウをもつロシアからの技術支援が得られないからだ。西側諸国は中国に軍事技術を提供しないが、イスラエルは中印両国に武器や軍事部品を売却しており、空母建造にも貢献している。イスラエルの協力で開発された中国の単発の新鋭戦闘機(J10)は機体損傷が多く、中国は空母を作っても艦載する戦闘機を製造できないのではないか。
中国の空母保有はどの程度の脅威か。対艦弾道ミサイルを開発し空母に搭載し対米運用を計画しても、米空母部隊には能力面で劣り対抗できない。東アジアやインド洋に配備されようが、日中の正面戦争はありえない。日本からの中間財輸入が途絶し中国経済にも打撃となるからだ。尖閣諸島の小競り合い等の当初防衛に使用されるのではないか。竹島と同様、民間人の不法占拠に対して、日本は自衛隊の海兵隊化や海上保安庁に国境警備隊が必要と思う。日本の空母保有コストは1兆円と巨額で空母建造は現実的でない。今年度予算化された海自の駆逐艦(22DH)建造費は多目的空母の建造であり、文民統制上問題だ。
中国空母の主敵はインド洋の制海権を争うインドではないか。中国のチベット侵略によりインドとの緩衝地帯がなくなり、67年中印紛争が発生した。08年西蔵鉄道が開通し陸路の兵力輸送が容易になり、軍拡の目はインド洋へ向けられている。中国にとってインド洋の海路はアフリカ資源輸入の生命線であり、ミャンマーに空軍拠点を整備している。インドの空母保有は英国製空母から始まり、2015年にはロシア製の改良艦、国産艦を加えた3隻体制とする計画だ。インドにはロシア支援もあり空母の建造能力と実力は高いと中国は見ている。中国がインド洋でプレゼンスを高めるには、東シナ海とインド洋に空母各2隻、最低でも4、5隻必要となり経済負担は大きい。
防衛費増額が困難な日本はインド向けODAを増加すべきだ。インドのインフラ整備協力により、インド部隊の展開力が迅速となり、インドの経済力向上は印中軍拡競争を招くが、日本経済上の間接的なメリットは大きい。自衛隊の防衛費増加のメリットは少ない。広い視点から最小コストで国防を考えることが重要だ。
谷野作太郎元駐中国大使:22年度予算項目の書き換えはメディアも報じていない。問題だ。
清谷講師:22DHは駆逐艦機能がないのに駆逐艦として予算計上された。多目的空母の保有は意味があると思うが、使用目的を明示すべきだ。政治家も理解していない。
谷野作太郎元駐中国大使:日本のODA供海与先の内インドが最大で環境、鉄道施設等が中心。空母の建造費はどのくらいか。
清谷講師:本体が6千億円、上物を入れて1兆円。年間運用費用が2千億円。
本間克己(株)ジーアンドエイチ代表取締役:原子力空母の場合、メインテナンスの頻度は。
清谷講師:米国は2隻保有しており原発と同じ頻度のメインテナンス。アフガン等で実戦の経験がある。米国の長期戦略用防衛予算は削減されている。日本も戦時の燃料の必要性の認識がなく備蓄予算が不足している。
遠藤良治信越化学工業(株)顧問:中国の空母配備の意図はどこか。米国が近づかない地域か。
清谷講師:空母保有は面子上の理由も大きい。チベットは残しておいていた方が緩衝となって軍事メリットあった。
今田潔信越化学工業(株)顧問:武漢の空母がレーダー・テスト目的であるならば、陸上に設置して実験可能なのか。ウクライナから中国へ技術者が入っている。ウクライナはロシア寄りの新大統領に代わったが影響はないか。
清谷講師:ロシアの支援なく実際のテストが必要となろう。中国の大型機やエンジン工場等はウクライナの協力が大きく、両国関係は緊密だ。政権交代でどうなるか不明だ。日本は情報収集力が弱い。防衛予算も装備関係は輸入品を使えば削減できる。
遠藤良治信越化学工業(株)顧問:中国の潜水艦事情を伺いたい。
清谷講師:ロシア製と国産の潜水艦を保有しているが雑音も多く性能は劣る。原子力艦もあるが動かない。戦闘機の稼働率も低いが無人偵察機は自衛隊より進んでいる。
谷野作太郎元駐中国大使:日本の国防政策への影響をどうみるか、年末の「防衛大綱」が注目される。危険海域はどこか。
清谷講師:防衛省の有識者会議には識者が不在。防衛予算も国産、輸入の視点が欠けたまま議論される。空母は政治的シンボルだが1隻では意味がない。台湾海峡が最も危険。
生田正治(株)商船三井最高顧問:米中の経済関係は強く、米中衝突はありえない。将来米国は第7艦隊を引き揚げ、台湾海峡は中国の内海になるのではないか。
清谷講師:中国は空母と弾道ミサイルをセットで配備しよう。
田丸周FEC常任参与:領土紛争に対処するため日本は国境警備船が必要と思うが。
清谷講師:不法侵入者を海保庁が拿捕すればよいのにしない。警告用爆雷を開発しても使用しない。「仏あれど魂なし」で行動できない。妥協以前の段階で政治が止めている。
谷野作太郎元駐中国大使:中国と重なっている排他的経済水域(EEZ)内の中国調査船を拿捕可能か。
清谷講師:中間線を越えた場合拿捕できる。
生田正治(株)商船三井最高顧問:東シナ海ガス田問題は主権を争って解決すべきではない。国境警備隊や海上自衛隊の出動は憲法に抵触し難しい。
清谷講師:日本は警察官僚の権力が大きく二重構造となっている。海保庁の警備隊に反対しようが、対外発信上、当初防衛上も必要だ。武器輸出3原則の議論もずれている。日本の武器関連メーカーは世界市場の経験がなく高価で競争力が弱い。兵器の再定義が必要だ。日米が共同開発したF2戦闘機は朝鮮戦争時のデータを基に開発されており性能は低い。日本の防衛予算は研究開発費の割合が低く、完成品の輸出競争力はない。大型兵器より安価なヘリ等へ予算を回すべきだ。また紛争当事国の米国に輸出している。
米澤泰治米澤化学(株)取締役社長:政権交代で基地問題、防衛予算は変わるか。
清谷講師:民主党は反自民党から普天間基地移設に反対。沖合案であれば面子がたった。米海兵隊の議論がなく、国防上の必要性と沖縄県民感情の整合性がとれていない。
生田正治(株)商船三井最高顧問:守るべき所は守るべし。技術的議論に走りすぎている。
清谷講師:「専守防衛」では日米同盟が維持不能となり、矛盾する。非核3原則と平和憲法は米国が裏書きする手形のようなものだ。
(田丸周FEC常任参与・油研工業(株)常勤監査役・記)